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第3章:誓いのキスは、まだ早い

廃病院の入口に立ったとき、俺の足は完全に止まっていた。

「ここ……ほんとに安全なのか……?」

「ウン。ゾンビ、入ッテコナイ。ココ、ワタシノ、トクベツナ場所」

クラリッサは得意げに胸を張った。彼女の姿は相変わらず美しい。血の跡すらもドレスのように見えてしまうあたり、俺の感覚もどうかしているのだろう。

「……で?なんで入口に、バージンロードみたいなの敷いてあるんだ?」

「アッ、気付イチャッタ?」

気付くよ。目の前には赤いカーペット、両脇にはガタついた車椅子や点滴スタンドがまるで招待客のように並んでいる。そして奥には、骨でできたアーチ。

「ねぇレイジ、結婚式、知ッテル? ヒト、愛ス、証」

「知ってるけど、知ってるけどさ!!なんで俺が新郎役なんだよ!」

「ダッテ、レイジ、チョコ、食ベタ。アイ、受ケ取ッタ。契約、完了」

「契約!? チョコバーにそんな呪いみたいな仕組みが!?」

俺は後ずさるが、背後の扉はすでに閉まっていた。そして扉の前には、ゾンビたちが静かに立っている。

いや、違う。

「スーツ……? こいつら……正装してる……」

クラリッサが拍手をすると、奥からパイプオルガンの音が聞こえてきた。いや、それっぽい音だ。多分、ゾンビが引きちぎった配管を吹いてるんだろう。

「レイジ、こっち来テ。ドレス、アル。着替エヨウ」

「なんで俺がウェディングドレス!?!?!?」

「アレ? 間違エタ。スーツ、コッチ」

俺はクラリッサの手を振りほどこうとするが、意外なほどの握力で動けない。ゾンビのクセに恋のパワーが強すぎる。

「やめてくれぇぇぇぇ!!!」

数十分後。

俺は何故か礼服姿で、廃病院の手術室に立っていた。周囲にはゾンビたち。クラリッサは白いドレスを身にまとい、笑顔を浮かべている。

「誓ウ? 愛ス? 一生、イッショニイル?」

「誓わねぇぇぇぇ!!!」

俺の絶叫が反響したその瞬間、手術室の天井が崩れた。

ドォォォン!!

「なっ……!?」

降ってきたのは、巨大なショベル付きトラック。天井をぶち破って中に落ちてきたそれには、数人の人間が乗っていた。

「こっちは制圧完了! 生存者確認!」

「感染者と接触した形跡あり! 隔離優先!」

「お、おい待て待て!俺はただ、ゾンビに惚れられただけで!」

その瞬間、クラリッサが俺の前に立ちはだかる。

「ダメ。レイジ、連レテ行カセナイ」

「クラリッサ……」

銃を構えた兵士たちと、ゾンビであるクラリッサが睨み合う。

「感染者は射殺対象だ! 退け!」

「ヤダ」

クラリッサの言葉に、一瞬だけ空気が止まった。

「この人、レイジ、ダカラ。奪ワセナイ」

その瞬間、クラリッサは動いた。ゾンビとは思えない速度で兵士の前に出て、銃を弾き飛ばす。そして叫ぶ。

「逃ゲテ、レイジ!!」

俺は本能で走っていた。手術室を飛び出し、廊下を抜け、階段を駆け下り、地下の通路に滑り込む。

背後では銃声と咆哮。そしてクラリッサの叫び声。

「レイジ、マタ、アイニクルカラ……!!」

俺は泣きながら叫ぶ。

「来なくていいからぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」

数時間後。

地下トンネルの奥、俺はほこりだらけの床に倒れ込んでいた。

疲労、恐怖、困惑……全部が混じって頭が痛い。

「……クラリッサ……なんであんなに一途なんだよ……」

あのとき、俺を庇って撃たれたかもしれない。

それでもゾンビなのに、俺を守った。

(……まさか、惚れそうになった……いや、ないないないない!!)

そのとき、地下トンネルの奥から、足音が聞こえてきた。

ぺた……ぺた……

「ま、まさか……」

薄暗がりから、現れたのは――

「……レイジ、オイカケルノ、トクイ」

「ぎゃあああああああああ!!!!」

こうして、俺の逃亡劇はまだまだ続く

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