第11章「本物のレイジと、偽りの記憶」
静まり返ったカジノの地下ラボに、冷気が満ちていた。
その中心に佇む、透明な氷のカプセル――中に眠るのは、俺。もう一人の「レイジ」だった。
「……ちょ、まって、俺ってコピーだったの!?マジで!?俺、納豆巻き好きなのに!?記憶って納豆で上書きできんの!?」
「納豆は関係ない」とヒナが冷静にツッコミながら端末を操作する。
「兄貴……じゃない方の兄貴、記録上は『被験体R0』。
つまり本物の、オリジナル・レイジ」
クラリッサは顔面蒼白で言葉を失っていた。
「ワタシが……惚れてたのは……どっちの、レイジ……?」
◆起動する“本物のレイジ”
カプセルが解け、冷気があふれた。
中からゆっくりと現れる、氷の中で眠っていた男。確かに、俺とそっくりだった。けれど――なにかが違った。
「……ここは……」
“本物”は低く、落ち着いた声で言った。
目が鋭く、背筋がまっすぐで、なんか全体的に“イケメン補正”がかかってる。
「……なにこの俺、スタイリッシュすぎない!?俺が出たら笑い声つくけど、この人出たらSEで“ジャーン”って鳴るタイプの登場だよね!?」
ヒナ:「兄貴、負けてるわ」
「なんの勝負にだよ!!」
Dr.ミナミが優雅に現れ、拍手をする。
「お帰りなさい、“本物のレイジ”。あなたの使命を覚えていますか?」
レイジ(本物)は、静かに答える。
「……この世界を、終わらせる。それが、僕の役目だ」
◆暴走する記憶、揺れるクラリッサ
クラリッサの目が揺れていた。
彼女の中にある“レイジの記憶”が、今の俺と、本物の間でズレを起こし始めている。
「ワタシ……今まで信じてた“レイジ”が……違う……?
でも、今、そばにいてくれたのは、“あなた”だった……!」
俺は苦笑いを浮かべた。
「もういいよ。“本物”だの“偽物”だの、俺にはわかんねーし。
でも……一緒にゾンビから逃げて、温泉で混浴して、風呂場でバトって、ポーカーで脳を賭けて……。
そんな馬鹿みたいな毎日、一緒に笑ってくれたクラリッサがいたから、俺は逃げずにいられた」
クラリッサの目が潤む。
「……でも、ワタシが好きだったのが、“幻想”だったら……」
「幻想でもいいだろ?お前の想いは、現実に俺を救ってくれた。それが、全部だった」
◆“本物のレイジ”の宣言
「……感情は非合理だ。クラリッサはゾンビだ。
感情は脳の電気信号。愛は幻想でしかない」
“本物”は、そう言い放った。
「君たちにはもう用はない。
この世界のゾンビたちは、“愛”を模倣して暴走している。
……リセットしよう、すべてを」
彼の背後に現れる、巨大な端末群。起動する《終末装置》。
Dr.ミナミ:「ついに始まる……“L.O.V.E計画”の最終段階よ」
俺:「うわぁ、絶対やばい奴起動した!スイッチ一回押したら人類滅亡みたいな名前してるよ!?なんでラグナロクとか名付けんだよ!!“再起動くん”とかにしろよ!!」
ヒナ:「兄貴、ツッコミしてる場合じゃない!もう、タイムリミットまであと5分!」
◆クラリッサの選択
クラリッサは、俺と“本物”を交互に見ていた。
「……ワタシは……どっちのレイジを選べば……?」
その時、ヒナがぽつりとつぶやく。
「選ぶとかじゃないんだよね。クラリッサは……どっちを“愛したいか”、それだけじゃん」
クラリッサはゆっくりと、俺に歩み寄り――その手を握った。
「ワタシが好きなのは……“あなた”。たとえ、コピーでも、レプリカでも、納豆巻きでも……」
俺:「最後のやつは関係ないと思う!!でもありがとう!!」
◆そして、裏切りの一撃
そのとき。
バチィッ!
クラリッサの背後で閃光。ヒナが、俺にスタンガンを突きつけた。
「……ごめん、兄貴。ここまでだ」
「ヒナ……?」
「“愛”なんて、もういらないのよ。
私は……この終末世界を、完全にリセットする。それが、“私の計画”」
Dr.ミナミ:「ふふ……ようやく目覚めたわね、“計算された妹”。あなたもまた、計画の一部……」
◆システム、暴走開始。
ラグナロク起動。空が裂け、ゾンビたちが一斉に覚醒。
・クラリッサの体も、制御不能に!
・“本物のレイジ”とヒナが手を組む!
・俺は意識が遠のきながら、最後にこうつぶやいた――
「クラリッサ……逃げてくれ。
もう、俺は……お前を守れないかもしれない……」