「あなたは『圏外おじさん』?」
目次:
1.圏外おじさん
2.『圏外おじさん』への道
3.配偶者たちの話題のターゲット
4.早く逝ってしまうしかないか
5.マイナスになったものを元に戻す家事
6.先ずはたった一つから
7.洗濯する
8.自分なりに極めれば楽しくなる家事
9.「あなたのやり方じゃダメよ」って言わないで!
10.家事の幅を広げる
11.目標はイーブンな関係
12.友人関係や社会活動に応用
1.圏外おじさん
『圏外おじさん』という言葉を聞くとどんな人物を想像しますか?
「料理の味が薄い!」
「洗濯物の仕上がりがフワッとしていない!」
「洗い方が悪いから食器に何かが付いていたぞ」
「おーい、昼飯はまだか?」
「外出するというのにまだ準備ができないのか!」
このように相手に対する注文や文句ばかり言っていて、自分では何もしないおじさんがあなたの周囲にはいませんか? こんなことを言われた人たちにとっては鬱陶しくてそんなおじさんには近づきたくなくなりますよね。
これとはちょっと違うかもしれませんが、こんなおじさんはいませんか?
テレビやSNSで接している政治家や芸能人やコメンテイターに対して、
「あいつの言っていることは全然違うよ。あいつは本当にバカだなあ」
「あいつはあんなことをしているけど、本当は俺の考え方の方がずっと良い」
なんて上から目線で言っているだけで、自分では何も具体的で建設的な行動を起こそうとしない人。
こんな人も家族や友人から、できればお付き合いしたくない人、って思われてしまいますよね。こんなおじさんは周囲の人たちから信頼されないばかりか相手にされなくなり、スマホで『圏外』アイコンが立ってしまっているような状態なのではないでしょうか。こんな人たちのことを『圏外おじさん』と呼んでみようと思います。
もしかして、あなたは『圏外おじさん』になりかかってはいませんか?
2.『圏外おじさん』への道
『圏外おじさん』への道を走りだす『きっかけ』はいくつかあると思いますが、定年退職した時が一つのタイミングなのかもしれません。定年退職を控えたおじさんが既に何年か前に退職していた先輩にこんなことを言われました。
「お前な、退職したら自宅にずっといてはいけないぞ。奥さんにとって、これまでお前が家にいなかった時は静かで自由だったのに、お前が一日中いると家の中が鬱陶しい雰囲気に変わってしまうからなんだよ。とにかく、朝飯を食ったらどこでも良いから外出した方がいいぞ。一日中家の中にいて、奥さんに注文ばかり出していると離婚されてしまうぞ」
『そんなものかな』と思っていたおじさんに更に別の先輩からも同じようなことをアドバイスされました。
「そうなんだ。じゃ、俺はどこに出かければいいんだろう? 街の図書館にでも行くことにしようか。でも、毎日図書館通いでは直ぐに飽きてしまいそうだな」
「昼飯はどうしようか? 女房に作ってもらったんじゃ、外出する意味が薄れそうだ。ハンバーガーでもかじって簡単に済ませるしかないか……」
このおじさん、何回かは外出を試みましたが、直ぐに自宅からほとんど出かけなくなってしまいました。奥さんは気を使って昼飯は作ってくれましたが、そのうち、仲間とのテニスだとか、スポーツクラブに行くとか、様々な理由を付けて、このおじさんではなく奥さんの方が外出するようになりました。
自分の昼飯を自分で作って食べているうちは問題がなかったのですが、スーパーでの買い物もあまりしたことがなかったこのおじさんは、奥さんにいろいろと注文を出すようになりました。
「パンが切れていたぞ」
「ジャムはどこにしまってあるんだ?」
「ソーセージと野菜がなくなったから買ってきて」
挙句の果てに、こんな要求を出す始末。
「自分で昼飯を作るのは面倒くさいから何か作ってから外出してくれないか」
ここまで来ると、この人は『圏外おじさん』への道をひた走りすることになります。
このような『きっかけ』は、この他にも、結婚して新たな生活を始めた時や共働きの夫婦に子供が生まれた時など、生活が大きく変わる変曲点で生じてくる可能性があるのではないでしょうか。
また、最近では『役職定年』が『きっかけ』になるケースが増えてきているようです。50代以降の一定の年齢になると、管理職の肩書を外されてしまうばかりか給料も大きく減額されてしまうという恐ろしい制度です。本人のモチベーションは下がるし家計にも大きな影響を与えます。これが熟年離婚に繋がるケースも少なくないとか。おじさんたちにとって『圏外おじさん』への入口はいくつも待ち構えているようです。
3.配偶者たちの話題のターゲット
『圏外おじさん』の相手である配偶者はどんな反応をしているのでしょうか?
とあるスポーツクラブの女性専用更衣室のベンチに座ってこんな会話がされているかもしれません。
「うちの旦那は『ああしろこうしろ』って言うばかりで、自分では何一つしないんだから、いい加減嫌になっちゃうわ」
「あら、そうなの。うちの亭主だって同じようなものよ。この間の夕食、珍しく『自分で作る』って言うから任せてみたのよ。そうしたら、『あれはどこにある?』、『この加熱時間は何分くらいだ?』、『盛り付け方はこれでいいか?』って、質問しっ放しなの。とても休めたものじゃなかったわ。その上、食べたら、これが不味いの何のって」
「それじゃ、自分で料理した方がよっぽどいいわよね」
「本当にそうよ」
子供を塾で勉強させている間、送迎に来ていた女性がママ友とこんな話をしているかもしれません。
「この間、家族旅行に行ってきたのよ」
「あら、よかったわねー」
「ところがね、いろいろと大変だったのよ。朝早く車で出掛けることにしていたの。ダンナは自分のことと車の準備さえすればそれでOKだっていう顔をしているじゃない。こっちは自分の支度以外に子供たちの持ち物を揃えたり、朝ごはんの後片付けをしたり、おにぎりを作ったりしなけりゃならないじゃない。ダンナよりずっと早く起きて準備していたんだけど、予定の出発時刻に少し遅れたのよ。そうしたら、『お前は愚図だな。もっと早く起きて準備しておけよ』なんて言われてしまったのよ」
「『そんなこと言う前に、お前も手伝えよ』って言ってやればいいのよ」
「本当にそう言ってやればよかったわ」
あなたの配偶者もこんな会話をしているかもしれませんよ。
4.早く逝ってしまうしかないか
周りから相手にされなくなり、独りぼっちの状況に追い込まれてしまった『圏外おじさん』はどう感じるのでしょうか?
多分、最初のうちは抵抗を試みることでしょう。先ず相手を威圧することから始まるかもしれません。恐らく事態は改善するどころか、ますます悪化してしまいますよね。
次の手は、相手に迎合しようとするのではないでしょうか。でも、これまで相手のペースに合わせて自分の行動を律したことなどほとんどない『圏外おじさん』には上手くできそうにありませんよね。
「あーあ、俺なんてこの世に存在していても仕方ない人間なんだ。早く逝ってしまうしかなさそうだな」
なんて思い込むのが関の山なのではないでしょうか。
でも、何とかする方法があるかもしれませんよ。
5.マイナスになったものを元に戻す家事
何をすればこんなひどい状況から脱出できるのでしょうか?
家庭という集団生活においての脱出法を考えてみたいと思います。家庭では構成する人それぞれが何らかの役割を果たし、互いに頼り頼られる関係を構築することによって集団生活が成り立っていると考えられます。ですから、一つでもよいから『任せてもらえる家事』を自分の仕事として確立することが重要となるのではないでしょうか。
どんな家事でもよいのですが、できれば『やりたくない方の家事』がよいでしょう。家事というと、『料理』を真っ先に思い描くかもしれませんが、『料理』は『なかったものを作り出す家事』に分類されます。料理をすることは新たに食べることができるものを作り出す、という『プラス』の効果があるのです。これは周りからは評価され易いのではないでしょうか? 例えば、『すごく美味しいよ』とか『お蔭で満腹になったよ』とかの誉め言葉を頂戴することになるかもしれません。このような『プラス』の効果がある家事はどちらかと言えば『やりたい方の家事』になるでしょう。
これに対して、『マイナスになったものを元に戻す家事』は、どちらかと言えば『やりたくない方の家事』になります。どんな家事がこのカテゴリーに分類されるかというと、先ずは『洗濯』です。衣服が汚れて『マイナス』の状態になったものを洗濯することにより、ゼロに戻す作業です。この作業では、元に戻すだけで新たな付加価値を付けることはないと考えるのが普通でしょう。
『食器洗い』も同じようにこのカテゴリーに分類されるでしょう。洗っている間に貴重な食器を壊してしまう可能性すらあります。こんな場合は元に戻すどころか、その価値を下げてしまう恐れさえあるのです。『トイレ掃除』、『床掃除』、『ゴミ出し』なども同じです。
このように付加価値を与えることが出来にくい家事は誰でもあまりやりたいとは思わないことでしょう。
こういう家事を率先してやるのです。『他人のやりたがらないことをやるしか、道は残されていない』と考え、実行するのです。これが『圏外おじさん』から脱出するための基本だと思います。
6.先ずはたった一つから
ここまで来たら家事を始めてみましょう。でも、何から始めればよいでしょうか?
『マイナスになったものを元に戻す家事』といってもいろいろなものがあります。このカテゴリーに属すると思われる家事をできるだけ多く見つけてみましょう。それらの家事の中で『自分でもできそうかな』と思われるもの、一つを選んでください。沢山選ぶ必要はありません。たった一つでいいんです。周囲の人たちから心配なく任せられる家事を自分の仕事として確立させることが『圏外おじさん』ではなくなる近道なのです。
前述の『定年退職したおじさん』は洗濯をその候補として選びました。
新品の衣類はまだ汚れもなくきれいな状態ですが、一たび人間が着用してしまうと本人は勿論のこと、ましてや他の人が着用することなんて普通の感覚の持ち主であれば無理ですよね。もっとも、新品の製品と言えども他の人が触っているかもしれませんし製品をきれいに見せるために何らかの物質が使用されているかもしれないと思い、『一度洗ってからでないと着用したくない』と考えている人もいるかもしれませんが。
人間の汗や代謝排泄物や埃やカビや菌類などが付着してしまった衣類は、きれいな状態の衣類から見れば、『汚れが付着している』という『マイナスの状態』になってしまっていると考えられます。
洗濯すると、この『マイナスの状態』を完璧にはできないかもしれませんが、ほぼ『ゼロの状態』に戻すことができると言えるのではないでしょうか。
7.洗濯する
定年退職するまでほとんど自分一人で洗濯などしたことのなかったこの人は、とりあえず自分の考えているやり方で洗濯にチャレンジしてみました。そうしたら、
「粉末の洗剤なんて使っているの? 洗濯物に洗剤の粒が残っていたわよ。この洗濯機は液体洗剤を使うように設計されているんだから、そうしてよ」
「柔軟剤、きちんと使ってくれた? なんだかゴワゴワしていて着心地が悪いのよ」
「洗濯物をしっかり伸ばしてから干してよ。皺だらけになっちゃっていて外に着ていけないわよ」
「せっかく洗ってくれても、いい加減に畳むから畳み皺が付いてしまっていてみっともないわよ」
家族から次から次へと文句を浴びる始末。さあ、この人はどうしたらよいでしょうか?
『圏外おじさん』になりやすい人は、『プライドを持っている人』が多いのではないでしょうか? こういうタイプの人は自分のプライドが傷付けられたと思い、
「ああ、それならいいよ。洗濯なんてやっていられるか!」
と臍を曲げ、洗濯という仕事を投げ出し、ますます『圏外おじさん』への道をひた走ることになるかもしれません。
でも、この定年退職した人は、ここでじっと我慢しました。この人が次に採った行動は、インターネットで『洗濯』について検索することでした。いくつかのサイトを眺めているうちに、自分が浴びた苦情は尤もなことであることをようやく理解したのです。
暫くの間、家族からの注文にはしっかりと対応しながら一日一回の洗濯と乾燥と後始末を、あれやこれや考えて自分なりに工夫してこなしてみました。すると、いくつかの改良点が見つかったのです。
・洗い方に関して言えば、酷い汚れがあるものは別洗いするか、下洗いしてから他の洗濯物と一緒に洗うこと。
・家族が多い時など洗濯物が大量にある場合は、比較的きれいなものと汚れているものとを分け、それぞれ別に洗濯すること。
・洗濯物を干す時は、広げてよく伸ばしてからハンガーや竿に吊るすこと。特に厚手のジーンズなどは上下を持ってピンピンと引っ張ってからハンガーに吊るすこと。
・物干し場では、一定の時間が経ったら表裏をひっくり返したり、太陽光に近い所と遠い所とを逆にしたりすること。
・乾燥した洗濯物を畳む時は、変な皺が出来にくいような畳み方をすること。これに関しては衣料品の売り場に行って畳み方をよく観察したりしました。
8.自分なりに極めれば楽しくなる家事
以上のような工夫をすると、少なくとも家族からの文句はほぼなくなったのです。
また、テレビやインターネットで得られた情報の中で、自分でも『なるほど』と思って実行してみたものの、別のマイナスの作用も併せ持つことが確認できたために、操作をしないことに決めたものもありました。それはどんな操作だったのでしょうか。
『バスタオルは二つの隅を掴み、数回強く振ってから乾かすと、タオルのパイル部分の繊維がしっかり伸びてフワッと仕上がる』という方法でした。
『パイル』とは、タオルのループになっている部分のことを意味していて、ふんわりとした肌触りをもたらしてくれています。この操作を実際に行なってみると、確かにバスタオルはフワッと仕上がり、拭き心地も良かったので続けてみました。暫くすると、どうもバスタオルの痛みがこれまでよりも激しいように感じられました。『長持ち』と『拭き心地』のどちらを優先するかの問題でしたが、この人は『長持ち』を重要視してこの操作は不採用としました。強く振る操作は止め、軽く振ってから干すことにしました。
ここまで来るとこの人の努力が周囲にも認められ、皆から『洗濯おじさん』と呼ばれるようになったのです。本人にとっては少なからず『誉め言葉』に聞こえました。そればかりか、自分なりに工夫を重ねて結果も伴ってくるにつれ、『洗濯』という家事が結構楽しく思えるようになってきたのです。
9.「あなたのやり方じゃダメよ」って言わないで!
『圏外おじさん』への道を歩み始めた人が『洗濯』のような家事に取り組みだした際、周囲の人たちは是非暖かく見守っていただきたいものです。
スポーツや勉強においても同様なことが言えると思いますが、だれでも最初のうちは『下手』だし、上手くできることはほぼないと言えるでしょう。ここで、『あなたのやり方じゃダメよ』などと言うことは、少しの間でよいですから我慢していただきたいのです。『圏外おじさん』になりやすい人は、人一倍自尊心が高いようなのです。最初の段階で、自分が非難されてしまうと、『それならいいよ。もう絶対に家事なんてしない!』などと変な決心をして、『圏外おじさん』へ道を辿ることになってしまうかもしれません。
周囲の人たちにお願いしたいのは、どんな些細な事でもよいから何かよい所を見つけて褒めてあげてほしいのです。その行為はきっと将来の周囲の人たちにメリットをもたらしてくれるものと思われます。
10.家事の幅を広げる
『洗濯おじさん』と呼ばれるまでに成長したこの人は、ごく自然に家事の幅を広げていきました。洗濯物の中にはシーツやパジャマや枕カバーがありました。そこで、洗濯のついでに布団やマットレスや枕を天日に当てて干す『布団干し』の作業も自然発生的に行なうようになりました。今度はこれまでの経験を活かし、最初からいろいろと訊いたり調べたりしてから作業を行ないました。
・布団を干す時は、前日の天気も考慮し、湿気の多い時は干すのを控えること。干す時間も、日差しの強さや季節によって変えること。
・布団を裏返したり前後をひっくり返したりすること。また、マットレスは重いことや材質を考慮して、風通しのよい日陰に立て掛けて干すこと。
などの注意点を頭に入れてから行ないました。当然のことながら、もう周囲からの苦情は一切ありませんでした。周りの人たちから完全に認められた証であるとこの人は捉えて、思わず微笑みを浮かべました。
こんな風にごく自然に家事の幅は広がっていきました。次に広げた『ゴミ出し』では、曜日によって出せるゴミの種類が決められているので、ゴミの分別、保管、ゴミ集積所への朝のゴミ出しまで平日はほぼ毎日作業をするまでなったのです。
こうなれば、この人は家庭の中で自分の立ち位置を完全に確立したと言えるのではないでしょうか。
11.目標はイーブンな関係
この人は『トイレ掃除』までは行なうようになりましたが、『料理』には手を出さずにいます。それはどう頑張っても料理の技術や経験は配偶者の方が圧倒的に高いからです。それに、料理までこの人が行なってしまうと配偶者が担当する家事はほとんどなくなってしまうからでもありました。家事は集団に属する人たちがうまく分担しあって行なうことも重要なことだと思ったことも一つの理由でした。ただし、『食器洗い』は時々ではありますがこの人が担当することもあります。
このように、自然に『任す・任される』の関係が出来上がれば、『圏外おじさん』と呼ばれていたことが笑い話になることでしょう。
12.友人関係や社会活動に応用
家庭では何とかできた『圏外おじさん』からの脱出法は友人関係や社会活動にも応用できるのではないでしょうか。
基本は家事と同じだと思います。同窓会や自治会などの集団において、普通の人たちが『やりたくない仕事』と感じる仕事を率先して行うのです。例えば、開催予定の会議案内の発信と出席者と欠席者の把握、構成するメンバーの連絡先情報の収集と整理および情報の保護、会の現状の報告等の個別メンバーへの情報提供など、普通に考えれば『できればやりたくない面倒くさい仕事』を引き受けて、それをある程度長期間に渡って着実に実行するのです。
そうすれば、時々政治家や芸能人やコメンテイターに対しての文句を発信しても、皆さんから大目に見てもらえるのではないでしょうか。
『圏外おじさん』と呼ばれそうなあなた、一度試してごらんになってはいかがでしょうか?