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『カルピスの原液と私』

作者: 呟木心葉

 懸賞で応募したカルピス一年分が見事当選し、我が家にカルピスフィーバーが訪れた。

 当たった当初は喜んだものの、数日で飽きがやって来た。誰もカルピスを飲まなくなり、封を開けていないカルピスが山の様に積まれ始めた。

 それから半年近くがたったある日。両親が仕事に行っている間に、私はバスタブいっぱいにカルピスの原液を注ぎ込み、入ってみる事にした。

 とぷとぷという粘り気のある音と共に、濃い白濁の液体がバスタブに注がれる。甘ったるい匂いが、鼻腔にへばり付く。

 何本のカルピスを使っただろうか。バスタブがカルピスの原液でいっぱいになった。

 カルピスの甘ったるい匂いにはもう慣れてしまい、別に何も感じない。

 私は服を脱ぎ、右足からゆっくりと、カルピス風呂に身を沈めていった。

 ねっとりとした液体が、ひんやりと全身を包み込む。纏わり付く濃厚な白濁の液体が、身体を動かす度に絡みついて来る。気持ちいいような、悪いような、不思議な気分だった。


 その時、急に風呂場の扉が開け放たれた。

 私はびっくりして、開かれた風呂場の入口を凝視する。そこには、大学から帰って来たばかりのお姉ちゃんの姿があった。

「えっと、これは……その……」

「ねぇ、知ってる?」

 私の弁明を遮って、お姉ちゃんはねっとりとした笑みを浮かべ、言葉を続けた。

「英語でカルピスってね、牛の小便って意味があるんだって」

 それだけ言うと、お姉ちゃんは風呂場の扉をゆっくり閉めた。遠ざかる足音が聞こえる。

「牛の……小便……」

 慣れたはずの甘ったるい匂いが、妙に鼻につく。

 これが牛の小便なはずは無いのに、纏わり付く濃厚な白濁の液体が、とても汚いモノに思えてきた。

 私は急いでカルピス風呂から抜けだし、身体中にへばり付いた甘ったるい牛の濃厚な小便を洗い流した。






 ――Fin――


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