第7話 決意
俺は店を作ろうと思う。国王から冒険者、貧民、女神様だって通えるような串カツ屋だ。その名も『串カツ大ぐるま』。
あの筍揚げの夜に俺とレイザは恋仲になった。俺の串揚げが彼女の心を捉えたのか、彼女の笑顔に俺が囚われたのか分からない。揚げたてのカツよりもアツアツの一夜を二人ともにし、あの夜、俺は店を持つことへの夢を膨らませ始めたのだ。
あくる日の小鳥がさえずる朝に俺はレイザに夢を語った。俺は自分を無口なつまらない人間だと考えていたが、その時は光り輝く陽光に背中を押された気がして饒舌に話すことができた。レイザは「うん、うん」と小さく頷きながら、薄い衣のような毛布でぷりぷりの柔らかな胸を隠しながら俺の話を聞いていた。ひと通り俺の構想を伝えたあと、レイザは、俺に言った。
「それなら、この宿屋を串カツ屋にしてはいかがかしら。改装費用のことなら心配しないで。私、前の夫に先立たれてから、保険金がおりてまとまったお金があるの。夢を見るための使い方ならば、あの人も浮かばれるわ。そういう人だったもの。それに達三さんの腕ならば、費用もあっという間に回収できると信じているわ」
レイザの思い切った提案とこの世界に保険制度が充実していることの二つの釣り合わない衝撃に驚きながら、俺はレイザの提案を受け入れた。
「それなら、出世払いということになるな。店が大きくなったら返すよ」
「返さなくていいわ。あなたが、私を伴侶にしてくれるならば...」
俺はそれが逆プロポーズだと気づくまでに数十秒かかった。俺は手を震わせ呆然としていたが、はっとして我を取り戻し、頬を赤らめ俯き様にこちらを見るレイザの視線を手繰り寄せ、レイザの肩を抱いた。
「ああ、いいよ」
短い言葉でしか返せない自分がもどかしくあったが、レイザにはそれで十分だったようだ。
「やった。いつまでも一緒に幸せにいようね」
小鳥のさえずりが鳴きやみ時間が経ったことを俺に暗示した。すっと立ち上がり俺は握り締めた手を天に突き上げて決意した。「―――これから店を大きくするぞ」
俺は拳に込めた力がそのまま店の形になる気がして、より強く握りしめた。