<第5話> 宿屋の食堂
<第5話>
俺がこの変な世界にやってきて、もう一か月は経つ。今では俺は、この宿屋の部屋を一つ借りて、宿屋の食堂を切り盛りしている。今日は朝から夜まで串揚げを揚げ続けることになっている。
レイザとは上手くやっている。聞けばレイザは寡婦だそうだ。レイザの主人はハンターだったが、ハンターで貯めた金でこの宿屋を開業したそうだ。そこに客として旅行で泊まりに来たレイザに主人が一目惚れをして、猛アタックしたそうだ。宿屋の主人が客に手を出すなんて商売の御法度かもしれないが、レイザはまんざらでもなかったらしい。元ハンターの宿屋の主人のワイルドな風貌が好みだったようだ。二人はしばらく文通を続け、お互いの事を詳しく知るようになってから宿屋の主人は、レイザを今度は彼女として呼び寄せて付き合うことになり、そのまま夫婦となったそうだ。その後、主人はハンターの血が騒ぐとかで趣味で狩にいったまま、帰らぬ人となったようだ。
なぜ、俺がこの話を知っているかって。それは俺の串揚げの力さ。宿屋が寝静まった頃に俺はレイザを呼び寄せて酒を注ぎ、串カツを何本か揚げてやることにしたのさ。毎晩、それを続けたらレイザは俺に心を開いちまってよ。
「達三さんには隠し事なんて出来ないよ」
なんて酔った赤ら顔で言うもんだからよ。俺も聞いてやるしかないってことよ。俺の串カツで女に心を開いてもらえるってんなら、料理人の冥利に尽きるってもんだ。なんて考えながら串カツを揚げていたら、おや、今日も閉店どきか。
「レイザはチーズの串揚げが好きだったかな。『揚げ職人』のスキルで取り寄せるか」
「達三さん、今日もお願い。わたしの話を聞いてくれ」
「おうよ」
こうして、またレイザの話でも聞いて今晩を締めくくるとするか。