宿屋の看板商品 串カツ
「レイザさん、鍋と油はあるかい」
「あるよ」
「ならば、俺がここの宿泊客に朝飯を用意してやる。朝から油物で重いだのと文句言わせねえような代物にするから安心しろ」
「はあ、まあここにあるから好きに使って、串カツ屋」
「あいよ」
俺はドバドバと油を鍋にぶち込んだ。
「あーっと。なにやってんだい。そんなに油を鍋の中に入れて。ギトギトになるし油っこくなりすぎるし。どうするっていうのよ」
そうか。ここには揚げ物の概念が無いから油をこうやって使わないんだな。まあ構わねえ。
「レイザさんは黙ってそこで見ててくれ、俺が旨い物を作ってやるから」
「なにさ、あんた、ちょっと、もう変な奴雇っちゃったわ。もう」
「違いねえが後悔はさせねえよ」つ
俺はレイザを何とか落ち着かせて、調理を続けた。朝に食うんだ。野菜中心の揚げ物がいいだろう。カラッ油を切るように揚げる。こうしてな。俺は慣れた手つきで揚がったシシトウやら椎茸を皿に盛りつけていった。こんなもんだろう。
「さあ、レイザさん。客に持っていく前にお前さんが食べてくれ」
「なによ、偉そうに変な奴。あんたなんか変態よ」
「違いねえ。だが、一度食ってみてくれ。頼む」
「仕方ないわね、もう」
レイザはそう言ってパクリと椎茸を掴んで口に入れた。
「何、これ、うまっ。あれ。なにこの軽やかな食感に素材の味を引き足されるよう
衣は。なに、やだ、もう」
「だろ、美味いだろ」
「え、ええ。美味しいわ。変態だなんて言ってごめんなさい。これならば、この宿屋の看板商品になるわ」
「そうかい、そりゃよかった」
「あんた、面白いわね。ちゃんとした名前を教えてよ」
「久留間 達三。変態でいい」
「あんたに変態なんて言えないわ。達三さん。よろしくね」
レイザの差し出す手を俺は握った。丸い柔らかな手だった。