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最前線へのアタック配信(8)

「うう…、なんでこんなことに……」


 沈んでいったメインディッシュ(ハサミ)を前に、私は悲しみの涙を流していた。

 せっかくのカニ鍋。まさか戦うのに夢中になって、こんな結果を招いてしまうなんて…。


「いや、まだ諦めるには早いかも!」


"もちつけw"

"レイナちゃんはご不満"

"まあ、カニ鍋楽しみにしてたからなぁ"


「取ってきます!」


 私は、そう宣言。



"草"

"まてまて、早まるなw"

"誰か止めてさしあげて"


"なになに、なにが起きてるの?(英語)"

"《英検一級はクソゲー》レイナちゃん、ハサミが沼に沈んでショック。回収しようとしてる"

"犠牲者覚悟の戦いで、そんなこと気にする人間がいるわけないだろ! いい加減にしろ!(英語)"

"瘴気の湖に飛び込もうとする人間がいる訳ないだろ、いい加減にしろ!(英語)"

"《英検一級はクソゲー》ぶわっ(´;ω;`)"


「行ってきます!!」


 美味しいカニ鍋のためなら、迷いはない。

 助走をつけ、私は脇目も振らずに瘴気の湖に飛び込んだ。


"ふぁっ!?"

"迷いなさすぎて草"

"英検ニキの言葉は正しかったんやなって・・・(英語)"


 戦いの記憶を元に、私は瘴気の湖の中を潜っていく。

 毒々しい緑色の湖であり、視界は劣悪のひと言であった。ちなみに瘴気なんて所詮は毒の一種に過ぎないので、カンストした毒耐性スキルでゴリ押す事が可能である。


 そんなこんなで私は、無事、デスクラブのハサミを回収することに成功。

 ホクホクした顔で、地上に浮上すると、


「おまっ!? いきなり瘴気の湖に潜るやつが居るか!」


 めちゃくちゃ心配そうな軍曹に迎えられた。


「だ、大丈夫です! 見てのとおりピンピンしてますから!」

「そんなアホな──本当のようだな。流石は彩音……、とりあえずこれを着て、一旦配信は止めて……、まったく。普通の探索者なら一瞬でお陀仏だぞ」


 有無を言わさず、上着をかけられる私。

 見れば集まった探索者たちも、心配そうな表情をしており、


"《鈴木 千佳》レイナ? 帰ったらお説教やな"

"《望月雪乃》これは、お説教ですね!"

"《英検一級はクソゲー》もうちょっと常識的な行動して(´;ω;`)"


 コメント欄にも、そんな言葉が届いており。


「心配かけて、ごめんなさい!」


 私は、ぺこりと頭を下げるのだった。



「常識を置き去りにするレイナ様、格好良い!」


 一方、そんな光景を見ていたミライが、目を輝かせていたとかいないとか。




※※※


「さてさて、みなさん! カニ鍋の時間です!!」

「「「うぉぉぉおおおお!」」」


 服が乾き(優しそうな魔術師のお姉さんに乾かして貰った。大人のお姉さん、格好良い)ついにお待ちかねのダンジョン料理の時間。

 鍋を用意し、私がダンジョン内で取れた野菜を取り出したところで、


「野菜を刻むのは任せろ!」

「カニの下処理はお任せを!!」


 剛腕さんたちが、そんなことを言いながら調理を買って出た。


「ほえっ!? 剛腕さんたち、料理出来たんですか!?」

「いや、まったく」

「なら……、なぜに?」

「ふっ。攻略班に選ばれてからは、こればっかりを練習していたからな……!」


 剛腕さんたちは、無駄に良い笑顔でそう答える。


「剛腕さん……!」

「な~に、良いってことよ」


 テキパキと鍋の準備を進めていく剛腕さんたち。


 言葉の通り、その包丁捌きはなかなかのものだった。

 グツグツと煮込まれ、やがて周囲には鍋特有の良い匂いが広がっていく。


"(注)探索者同士の会話です"

"か、完璧な役割分担や……"

"でも自信満々なだけあって、美味しそう"

"↑↑騙されるな、猛毒やぞ"



 数十分後。

 私たちは、巨大な鍋を囲んで談笑していた。


「流石はレイナ様ッス! 空中に向かってビューンて飛んでいって、ドカンドカン、バッキンて!」

「ミライちゃんもナイス打ち上げだったよ!」

「まさか俺たちが見てるだけになるとはな……。俺たちも、まだまだってことか──」


 そういえば私が好き勝手に暴れ回ったせいで、参加者の出番を奪うことになってしまったのかもしれない。でも何人かの探索者からは、これで全員で生きて帰れるって泣いて感謝されたし、きっと大丈夫だろう。


(そんなことより……、カニ鍋!)


"話しながらソワソワ鍋見るレイナちゃん可愛い"

"剛腕さんたち、かつてないほど頼もしいなw"

"これほど和気藹々としていた最前線攻略班が、かつてあっただろうか……w"

"たしかに普通なら戦果の取り合いでギスギス始まりそう"

"レイナちゃん、ソロ討伐だからなぁ……"



「そろそろ食えるはずだ」

「わくわく、わくわく。……わあっ!」


 剛腕さんが蓋を開け、ぐつぐつと湯気が立ち上る。

 巨大なカニも良い色合いになっており、ぷりぷりしていて美味しそうだ。


 今回の立役者だからと、私に渡された取り分はカニのハサミ丸ごとだ。


「ミライちゃん、カニ鍋美味しいね!」

「はい、すごく美味しいッス! また食べたいッス!」

「ダンジョン深層……、本当に最高ですね!」


 野菜まで現地調達できる、というのが最高だ。

 煮ても焼いても食えない憎き鎧野郎とは、大違いなのである。


"えぇ……(困惑)"

"みんな当たり前のような顔で毒鍋食べてて草"

"見た目だけは美味しそうなんだよなぁ"

"なんでこの人ら、平気なん?"

"まあ攻略班、基本人間辞めとるし……"


 皆で鍋を囲み、場には笑顔が溢れている。

 私が幸せな気持ちで、パクパクとカニ鍋を口に運んでいると、



(あれ、イーグルス佐々木さんは要らないのかな?)


 隅っこの方で、できるだけ目立たないように、目立たないようにと縮こまっているおじさんの姿を発見する。

 今回のアタックの言い出しっぺにして、問題も引き起こしていたダンジョンイーグルスのギルマスである。


(みんなで食べた方が美味しいよね!)


 私は、笑みを浮かべながら、


「佐々木さん! 今回のアタックは成功です。こっちに来て、一緒に食べましょう!」

「ヒィィィ! どうか、お助けを……!」


 私が呼びかけるも、イーグルス佐々木はブルブルと震えるのみ。


(あれ……?)


"レイナちゃんに睨まれた鷲?"

"食材やぞ"

"【悲報】イーグルス佐々木、毒耐性スキルを持ってない"

"何しに来たんだ、この人……"


「大丈夫です! そんなに強くない毒なので、少しずつ慣らしていけば……!」

「ヒィィィィ!」


 涙目で怯えている佐々木さん。


(こんなに美味しいのにな)


 私は、パクリと鍋を口に運んで首を傾げるのだった。




※※※


 気分はさながら打ち上げ会場。

 中にはお酒を取り出した探索者もおり(どこから出したのだろう)ボス部屋には、ゆったりした空気が流れていた。



"レイナちゃん、幸せそう"

"見てるだけで癒される"

"ここだけ見れば天使なんだよなあ"

"てかゲテモノ以外も普通に食べるんやな。てっきり、普通の食べ物は受け付けないゲテモノマニアかと……"


「ちょっと!? ゲテモノマニアって何ですか!?」


 納得いかない私に、


"つデュラハンを食べるレイナちゃん →URL"

"つスケルトンゾンビで出汁を取るレイナちゃん →URL"

"つマナ溜まりを綿あめだと思って食べてみるレイナちゃん →URL"

"つ毒鍋に舌鼓をうつレイナちゃん →URL"


「いやぁぁあああああ!?」


 おかしい、黒歴史がどんどん拡散されている。

 インターネット、怖い。あと、毒は美味しいから、仕方ない。



「へい、おかわりもありまっせ!」

「わあっ! 頂きます!!」


"剛腕さんたち、そのポジションが板に着きすぎてて草"

"※戦闘要員2、調理担当2でダンジョンイーターズは構成されています"


「俺たちなりに、どうやればギルドのためになるか考えてな……」

「そうして導き出した答えが……、これさ!」


 胸を張る剛腕さんたち。


"あながち間違ってなさそうだけどwww"

"それで良いんか、探索者ァ!"



 気がつけば、あれだけあった鍋は空っぽになっていた。

 集まっていた探索者たちも食べ終わり、こちらの様子を窺っている。名残惜しいけれど、そろそろ出発のときだ。


"これからの公約は?"


「もちろん、世界中のダンジョンモンスターを食べ尽くすことです!!」


"レイナちゃんなら行けそう!"

"幸せそうな顔で食べるレイナちゃん(耐久版) →URL"

"《望月 雪乃》可愛い、毎日レイナちゃんにご飯作ってあげたい……"


「ほわっ!? ゆきのん先輩の料理、毎日食べたいです!」


"餌付けw"

"てぇてぇ?"

"毎日、深層にもぐらされるが宜しいか"

"《望月 雪乃》ぇ……?"


 そんなことを和気藹々と話しながら。

 新宿ダンジョンへのアタック――今日の配信は、お開きになった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 英検ニキ笑
[一言] レイナちゃんドラゴンorワイバーンのお肉の検証お願いしますw
[気になる点] あれ? 蟹は鍋だけじゃなくて焼いたのも食べるはずでは!?
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