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レイナ、起きたら大変なことになっていた

 翌日の朝。

 私――レイナは、むくりと起き上がる。


(どうやら帰ってきて、そのまま寝落ちしたっぽいな)

(こんなだらしないところ、リスナーさんには見せられないね……)


 まあ、イメージを壊すようなファンも居ないんですけどね!



 はあ、とため息。

 目をこすりながら起き上がったところで、


(……ん?)


 スマホがぶるぶると震え続けているのを見て、私は首を傾げる。



 ひっきりなしに通知が来ているのだ。

 スマホを見て、まず気がついたことは――



「なんで配信中になってるの!?」


 いやぁぁぁぁぁ、と絶叫。

 物理的に破壊せんばかりの勢いでスマホに飛びかかり、慌てて配信を閉じる。


(おかしいな……)

(ちゃんと切ったはずなのに――)


 否、閉じようとした。


 しかし閉じれない。

 閉じるボタンを押しても、ピクリとも動かないのである。

 私、彩音レイナ。実は、大の機械音痴なのである。



(なんで~!?)


 涙目になる私。

 不幸中の幸いか、ダンジョン探索中と同じカメラモードなので顔は映っていない。

 動揺する私の前を、不穏なコメントが横切っていった。



"迫真の絶叫草"

"つぶやいたートレンド1位おめでとう!!"

"チャンネル登録者数50万人おめでとう!"

"新宿救って、そのままスヤスヤ眠ってたのホンマ草"


 コメント欄の速度が、尋常じゃないほどに速い。

 不思議に思った私は、チャンネルの同接を見て――


「10万!? 10万なんで!?」


 見たこともない数字が飛び込んできた。



 同接1桁常連の私。

 10人を越えた日は、ささやかなお祝いにケーキを食べた。

 翌日ゼロ人で、枕を涙で濡らしたっけ。


 そんな私に、なぜか10万人以上もの視聴者が集まっている……!?

 最高に意味がわからなくて固まってしまった。



"ゆきのんとは知りあいだったんですか?"

"どこの事務所所属なんですか?"

"ドラゴンゾンビ、怖くなかったんですか!?"

"( ゜∀゜)/あっはっはっはっは!"


 コメントの中には、昨日の"例のアレ"について触れるものもあり……、


「いやぁぁぁぁぁぁ――!」


 私は絶叫とともに、スマホを物理的に破壊。

 強制的に配信を打ち切るのであった。




※※※


 真っ白い灰のようになっていた私であったが、ふと我に返り立ち上がる。


 それから、おもむろにパソコンを立ち上げた。

 情報収集のためだ。



 おそるおそる、つぶやいたーを開くと、


(ほわっつ!? 本当にトレンド1位に自分の名前がある……)

(いや、本当になんで!?)


 どうやら私は、超大人気ダンチューバーを助けていたらしい。



 望月雪乃――ゆきのん、シャイニースターズの期待の星。

 初心者向けのためになる解説配信スタイルで、堅実に人気を集めていたはずだ。

 ゆきのんのことは、当然私も知っていた。

 デビュー配信はすごくワクワクしたし、今でも定期的に配信を見るぐらいには好きだ。


(非常事態だから、場を混乱させないために変装していたのかあ……)

(サイン欲しかったなあ――って、そうじゃなくて!?)


 昨日のあれが配信に映り込むなんて、大事故である。

 もし私が企業ダンチューバーなら、クビ待ったなしの大スキャンダルだ。


(解せぬ……)


 そんな危機感をよそに、現実は謎の盛り上がりを見せていた。


 つぶやいたートレンド1位には、燦然と輝く彩音レイナの名前があった。

 チャンネル登録者は、本当に50万人を突破している。

 あまりにぶっ飛んだ数字で、いまだに現実感がない。



 私は試しに、彩音レイナの名前を動画サイトで検索してみた。


「どれどれ……?」


 驚くことに。……いや、予想どおりというべきか。

 昨日の光景が、大量に切り抜き動画として上がっているようだった。


"【最強幼女】ドラゴンゾンビをワンパンした模様"

"狼ぶちのめしてニッコニコのレイナさん(耐久Ver)"

"ベテラン探索者が、例の戦いを解説してみる(彩音レイナ、例のアレ)"


 ……そっと閉じた。



(ってか、幼女って。幼女って……)

(私、これでも15なのに!?)


 こんな時にまで、コンプレックスだった童顔問題を思い出させないで欲しい。

 そりゃあ、たしかに子供の探索者は珍しいけどさ。

 いや、私と同姓同名の幼女が、どこかでドラゴンゾンビをワンパンした可能性が微レ存?

 

 ついには、現実逃避のような思考を始めたとき……、




 ――ピリリリ、ピリリリ


 チャットアプリのルインに着信があった。

 呼び出し相手は、鈴木千佳――私の悪友にして、ある意味すべての元凶である。

 

 千佳は、工学部・ダンジョン探索支援科に所属する同級生だ。

 自称・発明家であり、ときどき怪しげな品を渡してきては感想を求めてくる。

 研究がノリにノッているときは、一週間は不眠不休で活動できる妖怪のような少女であった。

 ちなみに私がダンチューバーとして活動を開始したのも、千佳の誘いである。



 私が通話に出ると、


「おめでとう、レイナ! いつか跳ねるとは思っとったけど、さすがにそれは想定外やったで」


 千佳は、開口一番、そう爆笑した。

 爆笑しやがった……!


(他人事だと思って、なんともお気楽な!)


「千佳ぁ! 笑いごとじゃないって。ど、ど、どうしよう!?」

「おや、思っとるよりテンパっとる?」

「当たり前でしょう!!」


 私の言葉に、千佳はケラケラと笑っていたが、


「せっかくやし直接会って話そうか。ウチはレイナの専属マネージャーやしな」


 ふと真面目なトーンに戻り、


「ありがとう。今日ばかりは心強いよ」


 私たちは、学食で待ち合わせることを決めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] スマホ物理的に破壊したのに友人から着信ってどう言う事なんだろう 配信とプライベートの2台持ちなんです? それともパソコンの方のディスコードみたいなもの?
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