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最前線へのアタック配信(2)

 新宿ダンジョン深層へのアタック。

 集まった探索者たちの前で、イーグルス佐々木が演説を始めようとしていた。



「知っての通り、本日の探索はダンジョン庁からの重要な指令である。思えばギルドを立ち上げて数年、我がギルドはついに深層に潜るまでに成長し、我が国を代表するまでの名門ギルドに成長した――――」


 ……数多の冒険者を集め、これからダンジョンへ。

 演説にも熱が入るのだろう。

 しかし、長い。始まった演説は、あまりにも長かった。


 私はぽけーっと話を聞き流しながら、校長先生のお話は長かったなあ――なんてことを思い出していた。

 見れば、他の探索者たちも退屈そうに演説を聞き流している。


 探索者の様子を眺めていると、さっきも会った金髪少女と目があった。

 同伴した探索者におぶわれており、ふわわわと大きなあくびをしている。

 目が合うと、にこやかに手を振ってきた。可愛い。



「――という訳で、本日のアタックは極めて重要なものである。失敗は、決して許されないものと心に刻んで――」


 どうやら演説の方も、ようやく終わりそうだ。



 そんな中、一人の探索者が遠慮がちに手を上げ、おもむろに口を開いた。


「これだけの攻略部隊だ。指揮は誰が取るのだ?」


 特徴的な狐面を付けた刀少女。

 たしかアルテマ・メモリーズのギルド長を名乗った探索者だ。



「ん? 指揮はもちろん私、イーグルス・佐々木が――」

「冗談。いったい、どこの探索者が、自分より弱いやつに従うと?」


 少女の言葉は、なかなかに辛辣だった。

 しかし、少女の言葉を止めるものはおらず――この場にいる者の総意であることが窺える。

 そんな緊迫した空気を前に……、


(一流の探索者さんたち……、血気盛んすぎる!?)

(怖っ!)


 私は、冷や汗をかいていた。



「な――!? ふざけるな! これは我々のアタックだ! 指揮だって、当然、私が――」

「だって言うなら、探索者としての腕を見せてもらわねえとな」


 1人の探索者が、前に出た。

 黒いスーツを身にまとい、黒のサングラスを着けた強面の大男。

 その風貌は、いかにもなベテラン警護者のような貫禄を感じさせる。


 ピリピリした緊迫感。

 しかし、その背中には金髪の少女が張り付いていた。

 私にサインをねだった小さな少女だ――なんともアンバランスな探索者ペアである。



「ちょっとー。メインディッシュを前に暴れないでよ」

「ですが、お嬢。ここでハッキリさせておかないと、後々、面倒なことに――」

「なら……、許す!」


 アメリカの探索者コンビだ。

 食材さんたちのコメントによると、アメリカでは有名な探索者たちらしく――


「な、何のつもりだ!?」

「この場で指揮を取るに相応しいやつなんて、一人しか居ないだろう。分かってるんだろう?」


 男は、佐々木にそう諭す。


(そ、そうなんだ……!)


 難しいことは、偉い人にお任せ。

 私は、ミライを助け、ついでにカニ鍋が食べられればそれで良いのだ。



「もし自分が指揮官に相応しいというのなら……。それなりの腕を示してもらわないとなあ!」


 男は、一気にイーグルス佐々木の懐に飛び込む。

 そのまま音もなく拳を放ち――


 佐々木の顔の真横を、男の拳が通過した。



「「「なっ!?」」」


 反応すらできない佐々木。

 次の瞬間、佐々木の真後ろにあったダンジョンの壁に、深々と巨大な穴が開く。

 あたりには砂埃が巻き起こり、その威力の大きさを物語っていた。


 恐る恐る、背後を振り返る佐々木。

 壁に開いた巨大なクレーターを見て……、


「ひぃぃっ!」


 そう情けない悲鳴をあげ、ぺたりとその場に尻餅をついた。

 


「もう。服が汚れちゃうじゃない」

「すまん、お嬢。このダンジョン、思ったより壁がもろいみたいで――」


 そんな光景を作り出した探索者は、何事もなかったかのように、そんな呑気な会話をしていた。


(こ、これがアメリカの探索者……!)

(すごい自由人!)



「一癖も二癖もある探索者の集まりだ。おまえに俺たちは使いこなせねえ――分かるだろう?」

「はひぃ……」


 こくこく、と頷くイーグルスの佐々木。



「この場で相応しいやつなんて、初めから1人しか居ない。そうだろう?」


 そうして指揮権を勝ち取った(?)男は、こちらを振り返り、


「――彩音レイナ。この場のリーダーに相応しいのは、あなただ」


 そう口を開き、恭しく頭を下げるのであった。




「………………へ?」


 探索者たちの視線が集まる。

 それが至極当たり前のこと、とでも言うように。


「いやいやいやいや。御冗談を!?」


 ――指揮?

 なにそれ、美味しいの?


 学校の授業で、指揮官コースのものもあったけど。

 見事に爆睡していたのが私である。



 誰か、反対の声を上げてくれれば。

 その人に、すべて委ねよう。

 そう思って、じーっと探索者たちに次々と視線を移していたが……、


「あたいは、レイナ様の言うことなら何でも聞くッス!」

「ここに居るのは、一癖も二癖もある探索者たちだ。束ねられるとしたら、間違いなくレイナ様しか居ないかと!」

「鮮血の天使、初の公式戦――今日という日を楽しみにしていたんだ……」


 飛んでくるのは、そんな追撃ばかり。


(なんで~~!?)


 内心で頭を抱えていると……、



「遅れてしまって、本当に申し訳ない! 武器選びに手間取ってしまって――」


 物凄く申し訳なさそうな顔で、私達のもとに駆け寄ってくる人影。

 ――その人影には、とっても見覚えがあった!


 きらりと輝く頭部の汗。

 私のギルド・ダンジョンイーターズのメンバーにして保証人。

 権藤(ごんどう)(つよし)――あだ名は・軍曹。



(ぐ、軍曹だ!?)

(何でここに……!? よく分からないけど、丁度よいところに……!)


 汗を拭いながら、状況を把握しようとしている軍曹に、



「わ、私は権藤さんに全指揮権をお譲りします!」

「…………は?」


 私は、そう高らかに宣言。



「あ、あなたは権藤さん!?」


 ほぼ同時に、そう素っ頓狂な声をあげるものが1人。

 声の主は、アルテマメモリーズの長田(おさだ)――有名ギルドの長であった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いや、指揮能力と強さは全然関係ないと思うが… 力頼りの脳筋主人公は若いだけ経験も少ないし、 とても指令向きとは思えない 猿山のボス猿みたいに偉そうに滅茶苦茶な命令を出そうが構わない、 …
[良い点] 軍曹何気にオールマイティで有能そう
[一言] 軍曹なら先生なんだしきっと大丈夫(ぐるぐるおめめ)
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