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役廻令嬢の決断

ドアの前でジェフリーが待っており、「皆さまお揃いですよ」と言い、ドアが開けられた。食堂には両親と兄妹が既に座っている。


「お待たせしました」


ステラがいつも座っている席に着く。全員が揃っていくことを確認するとセドリックが豊穣の女神に祈りを捧げる。


「偉大なる女神ルクレシアの恵みに感謝を」


続いて、私たちも「感謝を」と唱え、祈る。


セドリックがカトラリーを手に取ったのを確認すると、ミレイユや私たちもカトラリーを手にし食事を始める。和やかな食事が進む中、兄のエヴァンが私に問いかける。


「そういえば、アレクと仲直りしたのか?」


ぶふっ、と飲んでいたスープを盛大に吹き出してしまった。


「まぁ、お行儀が悪いわよ、ステラ」

「ごほっ、ご、ごめんなさい・・・」


これはファンブックを購入した人しか知らない部分だが、エヴァンとアレクは全寮制の学校で先輩後輩の間柄である。二人は卒業してからも繋がっており、とても仲がいい。

ステラが言わずともアレクとのことはエヴァンに筒抜けなのだ。


「姉さま、姉さま、大丈夫?」


弟のキーランが背中を優しく擦ってくれる。


「大丈夫よ、ありがとう。キーラン」


口元をナプキンで拭い、キーランの頭を撫でる。キーランは嬉しそうに目を細めた。


な、な、なんて可愛いのぉ!!こんなにキーランが可愛いなんてファンブックに載ってなかったわよ?!弟の頭を撫で繰り回してしまいたい気持ちを抑え、私は軽く咳をして、エヴァンへ視線を送る。


「コホン、あの。お兄さま、そのことなんですが・・・」


アレクのことだから都合のいいように情報操作しているかもしれない。若干不安を覚え、改めて喧嘩した背景から順を追って話すことにした。


「・・・ということなのです。アレクから結婚しようと言われましたが、私はまだ気持ちが固まってないので・・・」


話の途中でバキッと大きな音がして、音が鳴ったほうに視線を向ければセドリックの手にあったワイングラスのステムが折れていた。


「おや、いけない」

「旦那様、お怪我は?」


素早くジェフリーがセドリックの手からワイングラスと折れたステムを取り上げる。


その様子を見て私は些か震え上がった。持ち方によっては簡単に折れてしまうのは知っているが、ステムだけを折るって・・・


「あなた。怒っているからって物に当たらないでくださいな」


ミレイユがセドリックを窘めた。


「・・・ミレイユ、私達の大事な娘がプロポーズされたのだよ?黙っていられると思うかい?」

「あら。女に生まれた以上、いつかは嫁いでいくものよ」

「それは・・・」

「ステラも大人なのだから、そういった話の一つや二つはありますわよ。・・・それで?ステラはアレクと結婚したくない、そういうことかしら?」

「いつかは嫁いで・・・一つ、二つ・・・?」


セドリックがミレイユの言葉をブツブツ反芻しているが、気にする部分がズレてますよ、とツッコみたくなったものの、スルーすることにした。


「はい、そうです」

「なぜ?」

「お父様とお母様のような夫婦が私の理想だからです」


私はセドリックとミレイユの顔を見ながら背筋を伸ばし、こう続けた。


「将来、私たち家族のように素敵な家庭を築いていきたいのです・・・彼から結婚の打診をされたとき、迷いが生まれました。本当に彼でいいのか、と」


「ステラ、貴方・・・」


「迷いが出ているのにいい加減な返事はできません。なので、アレクとはもう終わりにします」


これが、私が出した答え。前世で【推しと結婚を想像しただけで妊娠しちゃう!】などと、おバカ丸出しの会話をかつての友人達と交わしていたが、いざ現実問題となると話は違ってくる。


相手は攻略対象。主人公も介入しているのならば、わざわざ危険な橋を渡る必要はない。モブはモブらしく生きればいいのだ。【ステラの幸せは私の幸せ】でもある。どちらかが不幸になるなんてことはしたくない。


私が言い終えると、本来のステラも同意してくれたのか心臓がドキドキと波打った。


「そう・・・その決断に至るまでいろいろ考えたのね。なら私は何も言わないわ。ね、旦那さま?」

「あぁ、私も同じだ。お前が私達家族を大切に思ってくれているように、私達もお前が幸せになってくれることを一番に望んでいる」


セドリックは全員を見渡しながらそう言うと、ミレイユ、兄弟たちも頷いていた。


家族の温かさに触れて胸が締め付けられる。次第に視界が滲み、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。


この涙は本来のステラのだと直感した。アレクに昨日再会するまでいろんなことを考えた筈だ。だから、この涙は別れることの悲しみと、家族の愛を感じた安堵の涙なのだろう。


今はただ泣かせてあげたい、そう思った。

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