役廻令嬢は落胆する
アレクから、事の顛末を聞いて状況を把握した。
「・・・・・・」
なるほど、ディアナは強行突破に踏み切った、と。
本来のイベントだと、アレクがディアナを誘って遊びに行った社交場でアレクをよく思わない他ギルドの連中に絡まれ、ディアナが攫われそうになる。既の所でアレクが助け、二人の距離がグッと縮まる、そういうエピソードだった。
結局のところ、ディアナがアレクに仕掛けて社交場へ行くことに成功したものの、ステラと鉢合わせてしまった。それにより本来のイベントが潰れてしまったが二人を仲違いさせることには成功した、ってところかな。
おそらくディアナは私と同じ転生者で間違いない。それも相当なプレイヤー。イベントのことをしっかり熟知して立ち回っている。
まぁ、向こうはヒロインだし?自分の攻略を進めたい気持ちは分からなくもない。ただ、ヒロインだからと友人であるステラを貶めようとするのはいかがなものか。自分さえよければ他はどうでもいい、そういうこと?
今までプレイヤー目線でいたから感じなかったが、ステラの立場で考えたら結構なことをされていると認識する。モブだからってナメた真似するなら、お望み通り応えようではないか。ちょうど目の前の男の好感度が爆下がりしたところだし、なんなら熨斗付けてお返しするわ。
私はアレクをジト目で見る。
勘違いやすれ違い、喧嘩は恋人同士であれば一つや二つは当然ある。それを二人で乗り越えながら愛を深めていく。仲違いからの仲直りは喜びが大きく感情が昂ってお互いを求めあう流れになりやすい。かくいう私もそういう経験がある一人だ。
だけど、今回は仲直りどころかステラの純粋な気持ちを踏みにじり、丸め込もうとした。いくら攻略対象でもやっていいことと悪いことがある。
【結婚】という言葉を口にした彼はステラを愛しているものと思っていたが、どうやら勘違いだったようだ。打算的にステラを縛るつもりなら、私は彼を許すわけにはいかない。
(ステラは私が守る)
不快な気持ちが顔に出ていたのか、私を見たアレクが焦りはじめ、必死に言い訳を口にする。
情けない男。
よくも軽々しくあのような言葉を口にしたものだ。どうせ使いどころがなくなればアッサリと切り捨ててしまうんでしょう?だってそういう人だものね、アナタは。
あんなにも好きだった推しが女を不幸にするサイテー野郎だったと分かると、一瞬にして気持ちが冷えていくのが分かった。
ステラを引き留める為に取り繕ったところで今の私には1ミリも響かないし、届かない。
ステラ、ごめんね。アレクを想う気持ちは理解してる。でも、このままで貴方が幸せになるとは到底思えない。貴方の命を譲り受けた以上、私は責任をもって貴方を幸せにする義務があると思っているし、貴方の幸せは私の幸せでもある。
すぐに理解してとは言わない。
だけどこの決断だけはどうしても譲れないの。
本当にごめんなさい。
軽く目を閉じて、胸元に両手を添え、ステラに伝わるよう念じる。
少し、胸の鼓動が早くなったのを感じた。
◇◇◇
「ステラ?」
アレクが私に触れようとするのを手で遮る。明確な拒絶を悟られたくなくて持ち前の淑女スマイルを顔に貼り付けた。
「分かったわ」
私は椅子から立ち上がり、私の服どこ?とアレクに聞く。
「え? あ、服ね・・・ちょっと待って」
彼は指をパチン!と鳴らすと衣服一式が現れた。服を受け取り、着替え始めるとアレクが問いかける。
「・・・帰るの?」
「うん、将来のことだしちゃんと考えたいから」
簡単に身なりを整え、連絡するから待ってて?と言うと、アレクは柔らかく微笑んで、「待ってる」と答えた。
「それじゃあ、またね」
私はアレクの頬に口づけ、移動魔法を発現させ座標をヴァルストレーム家に設定した。自分が消える刹那、チラリと横目でアレクを見ると、先ほどの柔らかな笑みは一瞬で消えていた。
もう一度内容を見返して、大幅に内容を改稿しました。