攻略対象は疑う(side:アレク)
とりあえず頭の中を整理したい。
まずは時間稼ぎのため、彼女の唇を塞いだ。
さっきの問いは何だったのだろう。確かにベッドの上で頭痛を訴えてはいたが・・・記憶が曖昧?そんなことがあるのか。
そもそも、ステラと付き合っているのは監視対象であるディアナ・フォン・シンクレアの友人だからだ。
それだけではない。今や飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を拡大しているヴァルストレーム伯爵家の娘だ。こんな美味しい【ネタ】を前にして、飛びつかずにはいられなかった。
利用できるものは利用する、それが俺のポリシーだ。
監視対象を探るために彼女に近づいたが、恋人同士になるのにさほど時間は必要なかった。聡い女性ほど自分にはない魅力を持つ者に惹き付けられやすい。俺は彼女の思う理想の男性像を演じた。
無事ステラの恋人となり、ディアナと接触をすることができた・・・が、問題が起きた。
俺が普段行ってる社交場に遊びに連れて行って欲しいとディアナに言われ、何度も断ったがディアナは連れていくまで諦めないと言うので渋々連れて行ったのが災いした。
社交場でステラと鉢合わせしてしまったのだ。
その時、ディアナが俺の腕に手をかけていたのを見たステラは二股をかけられたと勘違いしてその場から飛び出していった。慌てて追いかけたが、既に転移魔法で消えてしまい、行方を追えなかった。その後、誤解を解くために何度もステラの家や職場に足を運んだが会うことは叶わなかった。
昨日、市場で会うまでは。
お互い目が合った瞬間、逃げようとしたステラを拘束魔法で引き留めた。今にも泣き出しそうなステラを横抱きにし、自分の家まで転移魔法を使って移動する。拘束から解いた途端、逃げようとする彼女をベッドまで連れていき、抱いた。
職業上、女性と睦み合うことが多々ある俺にとっては抱くことなど造作もないことだ。
ステラには申し訳ないが、クライアントが満足する結果を得るためには多少の犠牲はつきもの。この依頼に取り掛かる前に慎重に調査を重ね、「犠牲」となる1ピースに彼女を選んだ。
その必要なピースであるステラが目覚めてからの様子がおかしい。
俺はいつも通り彼氏として振舞っているが、先ほどからの彼女の言葉、仕草に今までのステラと何かが違うと俺の頭が言っている。
これを言葉に表現するなら・・・そう、違和感。これが一番しっくりくるだろう。
一体、眠っている間に何があった?
ダメだ、このままにしてはおけない。
不安要素は徹底的に排除しなければ。
失敗は許されないのだから。