役廻令嬢は演じる
「アレク」
そう口にするとアレクが私を愛おしそうに見つめ、どうした?と聞いてくる。
くっ、やはり攻略対象・・・!最推しの顔面偏差値が高すぎる・・・!!胸元のシャツをキュッと握り、向けられる眼差しをなんとか受け止める。
心臓の鼓動が耳まで響いて煩い。頬も薄っすら赤い気がする。ダメだ、しっかりしなくては。ちゃんと聞かなければならないことがあるでしょ。
ふぅ、と数回呼吸を整え、アレクを見据える。
「実は、さっきの頭痛で記憶が曖昧で・・・どうして私たちはこんなことに?」
「・・・え?」
アレクの表情が固まる。いや、うん、そうだろうね。そうなるよね。何言ってんのコイツって思ったよね。でも、しょうがないの。ステラの中身が変わってしまったのだから。できるだけ違和感がないように入れ替わりのトリガーになった頭痛を持ち出して聞いてみたんだけど、やっぱり無理があったかしら。
・・・しょうがない。次の手を使うか。
私はアレクの胸にそっと寄りかかり、顔を埋める。頭上で息を吞む音が聞こえた。
「・・・さっき、結婚しよう、って言ってくれたでしょ。あなたがどんな気持ちで伝えてくれたのかを知りたいの。だから・・・」
背中にそっと腕を回す。切ない声色で言葉を紡いだ。アレクは酸いも甘いも経験豊富な情報ギルドのオーナーだ。下手な言い訳はきっと見抜かれてしまう。些か卑怯な方法だが、レナだったときに漫画やドラマで見ていた強かな女性を思い出しながら演じる。
少し間を置いてゆっくりとアレクを見上げると、戸惑いと嬉しさが織り交ざった表情をしている。
もう一押し。
「・・・私のこと、嫌いになった・・・?」
眉尻を下げ、悲しみを含んだ視線を送る。その瞬間、アレクはステラを力いっぱいに抱き締める。
「嫌いになるわけ・・・!俺は、君を・・・」
そう言葉を切って、私の顔を両手で優しく包む。今にも口づけされそうな距離まで顔を上げされられた。
互いを見つめあう。
「愛してるんだ」
感情のこもったフレーズに一瞬で顔の表面温度が高くなり、真っ赤になるのが分かった。
え、え、ちょ、ちょっと待って。
私、顔大丈夫?!顔面ヤばいことになってない??
まさか、ど直球ストレートな「愛してる」をかましてくるなんて・・・そんなの反則でしょ!
思いもよらない攻撃を受けて、全身が機能停止してしまったかのように硬直してしまった。
頑張って声を出そうとしても、はくはくと口が動くだけで肝心の声が出ない。
そりゃ、私だって生前はそれなりに恋愛をしてきた。けど歴代の彼氏たちから「愛してる」なんて言われたことないからどう返したらいいか分からない。
だんだん恥ずかしくなって俯こうと顔を下げようとしたが、アレクの手がそうはさせまいと優しくながらも先ほどより両手に力がこもり、俯くことを許してもらえなかった。
羞恥心で自然と瞳に涙が溜まる。
「アレ・・・っ」
かすれ気味ではあるが声が出たと思ったら、名前を呼び終わる前に唇を塞がれてしまった。アレクの眼や言葉、行動にステラへの愛を感じる。本当にステラのことが好きなのね。
そう思った瞬間、胸のあたりがキュッと締め付けられる感覚がした。
ああ、ステラもアレクを愛してたのね。
彼女の人生を私がもらい受けたのだから、ちゃんと彼女の気持ちを伝えなきゃ。
私はアレクを強く抱きしめ返した。