役廻令嬢とヒロイン「ディアナ」
「美味しい・・・」
猫舌の私は飲み物にフーフーと息をかけ、ゆっくり飲み込む。ほろ苦くも少し酸味を感じる。コーヒーだと認識すると緊張が解けたのか、ほぅ、と安堵のため息が零れた。そっと隣を盗み見る。朝日がアレクのシルバーグレーの髪に当たってキラキラと輝いている。
「・・・綺麗ね」
しまった・・・心の声が漏れてしまった。手で口を思わず押える。ちらりと隣を見ればアレクが嬉しそうに眦を下げて笑う。
「俺よりもステラのほうが綺麗だよ」
そう言って、アレクは私の髪を一房掬って口づける。あまりにも自然すぎる動作に見入ってしまった。徐々に顔が熱くなっていく。アラサーの私でも、まだ羞恥心というものを持ち合わせていたようだ。
・・・あれ、でも待って。このフレーズ、どこかで・・・
私は聞き覚えのある言葉を脳内で反芻する。アレクルートのどの部分だった?第2章?・・・ううん、違う。このシチュエーションはもっと後だ。ヒロインと両想いになって、その後のスチルで見たんだ。自分が記憶してるスチルをフル稼働してスライドさせる。カシャカシャとスライドさせていく中、ある一枚でピタリと止まった。
コレだ。
スチルを思い出し、私はハッとする。
まさか・・・
今まさに、この状況がスチルとして描かれていた。主人公のマロンピンクの髪に口づけを落とすシーン。透き通る声で彼は確かにこう言った。
俺よりもディアナのほうが綺麗だよ、と。
ディアナ・フォン・シンクレア、17歳。隣国リトアズの由緒正しき伯爵家の長女。
マロンピンクの髪にオリーブブラウンの瞳。小ぶりな唇は可愛らしく、まさにヒロインらしい容姿。
家族は両親と長男、妹、弟がおり、シンクレア家はブティックにカフェ、レストランなど幾つものお店を営んでいる。経営者である父ジェドと母レイラの多彩な経営戦略はリトアズ国内で右に出るものはいないと称されている。だが実はそれは表向きで、本業は別にある。一部の高位貴族しか知られていないことだがシンクレア家は代々諜報員として皇室に仕えており、リトアズ国繁栄の裏にシンクレア家あり、とまで言われている。
情報源とされる主なソースはシンクレア家が経営している店に足を運んでくれる「客」の噂や口コミだ。社交界やお茶会で交わされる「会話」も重要な内容ではあるが、貴族間ではコミュニティが限られてしまい、偏った情報になってしまうのが残念な点だ。
その点、店舗を利用する「客」であれば、平民から貴族まで老若男女問わず様々な情報を収集できるのが最大の魅力と言える。それらの情報を日々吸い上げ、精査し徹底的に調査する。必要であれば潜入し、確かな情報を掴むために危険を伴う事も厭わない。そうして重要な情報を迅速に皇室に提供してきたことにより、常に先手を打つことでリトアズを強国に創り上げてきた。
だからこそ、シンクレア家たるもの「完璧」でなければならない。
4人の子供たちは厳しい勉強の傍ら、店で従業員として働き、実践形式で情報収集を行うことが一族の習わしだった。成長に伴い馬術、武術なども習い、様々な経験を積み重ねていった結果、子供たちは一般的な子供よりも大人びた雰囲気がありつつも物腰が柔らかく、聡明で親しみがあり、いつも輪の中心にいる存在となった。どんな人でも容易に情報を引き出すことができるのは努力の賜物だと言えるだろう。
その中でも圧倒的な親和力を持つディアナが今回、隣国エルモアへの潜入を命ぜられた。目的は【エルモア侵略のための糸口】を掴むこと。そのために留学生としてエルモアに入り、アレクや他の攻略対象たちに近づき、持ち前の親和性で彼らの懐に入る。そして糸口となる情報を搾取し国へ持ち帰ることがディアナに課せられた仕事だ。
そして、ディアナが留学生としてアカデミーに入ったところからゲームはスタートする。
確か、アレクルートの終盤で分かるんだよね・・・ディアナが隣国のスパイだと知ったアレクと、決して結ばれることがないと知りながらもアレクを愛してしまったディアナ。ようやく二人が結ばれたときは嬉しくってテレビ画面の前で号泣したわ。
で、結ばれた後の二人のスチルが出るんだけど、それが今のシーンなのだ。主人公のポジションになぜか私。え、ディアナは??
そもそもアレクと一夜を過ごしたことといい、ベッドで言われたあの言葉、どういうつもりで・・・
ステラとして目覚めたものの、どうも思い出せない。とすると、当事者に聞くしか・・・私は意を決して彼に問いかけることを決めた。
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