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役廻令嬢と攻略対象「アレク」

「ほら、これ飲んで」


差し出されたマグカップを両手で受け取る。


「・・・ありがとう」


香ばしい香りが鼻を擽る。これはコーヒー、かな。この世界にもあるんだ・・・

ユラユラと揺れる液体に映る自分の姿をじっと見つめる。それはかつて「レナ」だった頃の姿ではなく、私が愛してやまなかった乙女ゲームの登場人物である「ステラ」の姿。


私はあのとき死んでしまったのね。


迫りくる車の恐怖、そして体に当たった強い衝撃が今でも忘れられない。思わず、車が当たった脚をさする。レナの脚ではないが、ちゃんと動いて温もりを感じる。それだけでも安堵する自分がいた。


「・・・ステラ」


ふわりと肩を抱かれる。顔を上げると心配そうな表情でこちらを見ている男・・・意識を失う前は誰だか分からなかったけど、今は分かる。


「アレク」


そう呼ぶと、男は柔らかに目を細めた。


アレク・ヴァレリー・ウォルシュ、18歳。ウォルシュ侯爵家の次男。

ウォルシュ家に代々伝わるシルバーグレーの髪にブルーサファイアの瞳を持つ。

ウォルシュ家は父・母、双子の兄がおり、当主のバートンはエルモア共和国の宰相を務めている。


兄のウォルターは大人しく、アレクは反対に快活な子だった。だが、物心つく頃から二人は将来の後継者になるべく厳しく育てられることとなる。


結果、ウォルターは着実に後継者としての実力をつけていき、13歳に最高峰といわれるアカデミーに入学した。一方、アレクは基礎魔力や剣のスキルも十分に優れていたが、常にウォルターと比べられ日陰の存在となっていた。明るかった性格も徐々に失われ、比べられる苦しみから解放されたい一心で、両親の反対を押し切って同じく13歳に全寮制の学校を選び、入学した。


4年後。彼らは卒業したが、双子だったはずなのに容姿も性格も全く別のものになっていた。


単語として表現するならば兄のウォルターは「堅物」、弟のアレクは「柔軟」といったところだろうか。


アレクは全寮制の学校に通ったことでいろんなことを学んだ。自分らしくいることの大切さ、他と比べる必要なんて一切なくて、思うような人生を歩んでいいという選択肢がある、ということを。


塞ぎがちだった状態から徐々に回復し、卒業する頃には元の快活なアレクに戻っていた。


在学中たくさんの友人を作り、いろんな経験を経て現在彼は自らお店を営んでいる。表向きは薬屋、裏では情報ギルドのオーナーとして。魔法と剣を扱えるアレクだからこそ活かせる仕事だ。


ステラはどう思っているか分からないけど、私はアレクが好きだ。いや、正確には「アレクルート」が好きだった。


寝る間を惜しんでプレイしたこのゲーム、「Stardust(星屑の)Garden(箱庭)」は主人公が隣国であるリトアズのスパイという設定だ。エルモアをリトアズに取り込むため、皇命を受けた彼女は留学生としてアカデミーに編入し学生生活を送る傍ら、小さなお店を開店するところから物語が動き出す。よくある学園ものではなく、大人女性でも楽しめるように作られた乙女ゲームだった。


豪華な声優陣と人気絵師を起用したことから発売前から空前の盛り上がりを見せていた。その熱量は発売されてからも変わらず、乙女ゲーム史上初の売り上げ記録を叩き出し、グッズは発売初日からすぐに売り切れ。発売後しばらくして舞台化、声優陣のファンミーティングに至っては5万人収容のところ20万人の応募があったほどだ。


そんな激戦を勝ち抜き、私と友人二人はファンミに行けることになった。イベントはめちゃくちゃ楽しくて、興奮冷めやらぬ私たちはイベントの感想を語り合っていた。幸せな帰り道だったはずなのに、結局・・・気分が落ち込んでしまいそうになるのをグッとこらえる。


私は死んでしまったけれど、二人は生きてる。それが何よりの救いだ。転生だなんて夢物語のような話だけど、現に私はステラとして目が覚めた。もし、生きるチャンスをくれたのなら大事に生きなければ。

※一部、加筆修正を行いました。

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