役廻令嬢は攻略対象と再び向き合う
バルコニーには月光が差し、淡い光が二人を照らしていた。
「……で、どう思った?」
低い声が問いかける。
ステラはゆっくりと振り返り、淡く微笑んだ。
「ごめんなさい。わたしには、分からないの」
アレクの眉がわずかに寄る。
「本当に何も……?」
「本当に何も」
その言葉は柔らかだったが、確固たる意思を秘めていた。
アレクは一歩、ステラに近づく。
「でも、君の目は違う。俺に何かを隠してる」
「違うわ」
「君が俺に心を閉ざした日から、ずっと感じてる。“違う何か”が、君の中にあるって」
(お願い、もうやめて)
ステラは視線を逸らし、バルコニーを後にしようとした。
だが――
「待ってくれ!」
アレクがその腕を掴む。振り向くより先に、ステラは彼に引き寄せられた。
「アレ…っ!?」
「……行くな」
言葉と共に、アレクの唇が重なった。
強く、切なく、まるで彼の執着と悔いがそのまま形になったかのようだった。
突然のことにステラは目を見開き、すぐに逃れようとする。
「や、やめて……っ!」
必死に身を捩る。けれど、アレクは抱き寄せた腕の力を緩めることはしなかった。
「…君が、何もかも忘れようとしてることは分かってる。でも、俺は忘れられない。君の笑顔も、涙も、怒った顔も――全部、俺の中に生きてるんだ」
「だからって、勝手に……!」
「俺は本気で君を愛してた。そして今もまだ……」
その声に、僅かな震えが混じる。
「逃げないで。もう一度だけでいい、俺を見てくれ」
風が揺れる。
ステラは――何も言えずに、ただ目を伏せた。




