役廻令嬢は手紙を読む
今回は短めです。
舞踏会前日の夜、ステラのもとに一通の封書が届いた。
差出人は――アレク・ヴァレリー・ウォルシュ。
見慣れた筆跡に一瞬心がざわめくも、すぐに抑え込んだ。
ふぅと溜息をつき、渋々封を開けると、丁寧な手書きの文字が綴られていた。
ステラへ
舞踏会の当日、少しだけ時間をくれないか。
話したいことがある。
君と離れてから、ずっと心に残っている“違和感”について。
君の中に、あの頃と違う何かを感じた。
そして今、ディアナにもそれとよく似た“言動”が見え隠れしている。
おかしいと思っている。だけど、確信が持てない。
君がなにを考えていたのか、あの時どうして立ち去ったのか。
もう一度だけ、ちゃんと向き合いたい。
俺の勝手な願いだってことは分かってる。
それでも、どうしても君に会って、話がしたい。
アレク・ヴァレリー・ウォルシュ
その文面を読んだステラは、しばらく動けなかった。
(……ああ、気づいてたのね)
彼の直感は鋭い。
ディアナだけでなく、ステラ自身にも“何か違う”と感じていたのだ。
(でも、言えない。言えるはずない)
自分が「レナ」だと知られたら、ステラとしての平穏な人生はすべて壊れてしまう。
そう、もうあの夜の感情は昇華した。アレクを愛していたのは過去の話だ。
それでも、アレクは――諦めていなかったのだ。
(まぁ…話だけでも聞くとしましょうか。……でも、もう私の心は戻らない)
ステラは封筒をそっと閉じ、そして、明日の覚悟を胸に静かに目を伏せた。




