表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

ヒロインはルート奪還を決意する(side:ディアナ)

どうして、あんなに自然に笑えるのかしら。


バルコニーの扉越しに、ステラとアレクの姿が見える。


静かに言葉を交わしながら、アレクが彼女の頬に手を添える。

ステラは戸惑ったように目を伏せたが、やがて彼に向かって微笑み返した。


その一連のやりとりを見届けた私は、静かに唇を噛みしめる。


(それは、私のはずだったのに…)


ずっとこの瞬間を夢見てきた。

アレクと共に舞踏会に出て、ドレスを贈られ、共に踊り、そして……夜を迎える。


この展開は、“Stardust Garden”の中でも最も甘く、美しい――

私が、カリナが、何十回と泣きながら攻略した、最高のルートだったはずなのに。


それなのに。


(どうしてあの子が、そこに立ってるの?)


わたしはヒロイン。あの子はただのモブ。ヒロインの引き立て役で、ちょっとした援護キャラ。いつだってルートから退場するのが役割だったはずでしょう?


――どうして、私の推しと“心”を通わせてるの。


ひとり、舞踏会の片隅の鏡の前に立つ。緑色の既製品のドレスが、やけに浮いて見える。


……私じゃないみたい。


鏡の中の自分は、どこか作り物じみた笑顔を浮かべている。いつものように、演じてきた“ディアナ・フォン・シンクレア”の仮面。


そして――その奥に、ふと浮かんだ“カリナ”の幻影。


《ねぇ、それでいいの?》


……。


(なによ……なんで今出てくるのよ)


《推しに愛されるためなら、何をしてもいいって言ってたよね?》


(……言ってない、そんなこと)


《じゃあ聞くけど――本当に、あの子を許せるの? 自分のポジションを奪って、“笑って”るあの子を?》


(……許せない)


《じゃあ、“壊しちゃいなよ”――ねえ、カリナ》


……ふふ。


私は目を伏せ、そっと口元を押さえた。


(そうよ……そうだった。私は、あのゲームのプレイヤーだった。“結末”を知っていて全ルートを把握してる。そして今、この世界の誰よりも、この物語を理解してる)


なのに、今の展開は完全にバグだ。正規ルートじゃない。あれは歪んだノイズ。バグの具現。


ならば――


(修正しなくちゃ)


控えの間に戻り、テーブルに手をつくと、胸の奥から熱がこみあげた。それは怒りではない。悔しさでもない。


【執着】


この物語は、わたしのもの。アレクは、わたしの推し。“私が選んだ物語の結末”を、モブ風情に勝手に書き換えられてたまるものか。


どんな手を使ってでも、絶対に元に戻す。


“ヒロインのルート”を、取り返すの。


「……ナイン、いる?」ディアナは誰もいない控えの間で呟く。


数分後、王城の隠された裏口に現れたのは、黒いローブを纏った若い女だった。リトアズ王国の精鋭諜報員――ディアナが持つ、唯一の切り札。


「任務ですか、ディアナ様」


「ええ。準備して。今からすべてを……"再構築"するわ」


その瞳には、かつて“推しを愛したディアナ”の姿はなかった。あるのはただ、物語の主導権を握り直そうとする、心が漆黒に染まったヒロインの姿だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ