役廻令嬢はリアコ製造機と邂逅する
「もう思考放棄したい・・・」
私は、とあるものを目の前にして大きなため息をついた。
遡ること10日前。ちょっと前からチェックしていた新作雑貨が運よく買えて上機嫌で帰宅したら、思いがけない人が我が家に来ていた。
「やぁ、ステラ嬢」
「王国の若き獅子にご挨拶申し上げます。アーネスト殿下、お久しぶりでございます」
自然に出たセリフとカーテシー。
ステラに感謝しつつ、内心ホッとため息をつく。
アーネスト・グラハム・エルモア。
エルモア国の第一王子であり、星庭の攻略対象者。王族特有の髪色であるホワイトゴールドの髪、そして紫紺の瞳を持つ185㎝オーバーの超絶イケメンだ。
星庭の攻略キャラランキングでは不動の1位を誇り、リアコ製造機と呼ばれていた。二次元でさえめちゃくちゃ人気だったアーネスト。
三次元で見る彼は途轍もなかった。
「ああ、久しぶりだね。園遊会以来かな?」
「ええ、5年ぶりでしょうか。殿下、本日はどのようなご用件でこちらに?」
「伯爵に伝えることがあってね。早く来るつもりだったんだが、執務が立て込んでいて訪問が遅くなってしまった」
「左様でございましたか」
お父様に用があるってことは・・・これはアレだ、陞爵の話だ。
はー、迂闊だった・・・ホームは大丈夫だと思っていた自分を殴りたい。陞爵の連絡なんて王家の家臣あたりが来ると思ってたんだけど、まさか王子殿下が直々に来るとは。
(できるだけ攻略対象との接触は避けたい、巻き込まれる前に早く離脱しよう)
「貴重なお時間を割いてしまい、申し訳ございません。お父様、大事なお話のようですので私は失礼しますね」
軽く会釈をし、二人の横を通り過ぎようとしたが「ステラ嬢、待って」とアーネストが呼び止めた。
「君にも聞いて欲しい話があるんだ、一緒に同席してくれないか」
「話、ですか・・・」
(なんかヤな予感・・・お父様、お願いっ、私をフェードアウトさせて・・・!)
祈りを込めてチラ、とセドリックを見る。お互いの視線が合い、セドリックが微笑み、頷く。
ステラは思いが通じたと思って満面の笑みを浮かべるも、次の言葉に愕然とする。
「早かれ遅かれお前には伝えておくことがあったから、ちょうどいい。同席しなさい」
「・・・分かりました」
はい、詰んだー。
私は心の中で大きなため息をついた。
◇◇◇
応接室に移動し、着席すると時間を空けずにメイドが紅茶を運んできた。最近取引を始めたジェノア産の紅茶。一般的な紅茶と違い、キャラメルの甘さやナッツの芳ばしい香りがするので気に入っている。
それぞれにティーソーサーが置かれた。ふわりといい香りが部屋中に広がる。
「さて、本題に入ろう。来月の王宮舞踏会でヴァルストレーム伯爵家を陞爵する発表を行うことになってね、まずそれを伝えに来たんだ」
そう言って、アーネスト殿下は王家の紋章が入った封筒を執事に手渡した。
(あー、やっぱりね。はいはい、知ってましたとも)
この流れは知っている。アーネストルートに出てくる王宮舞踏会イベント。この時にステラはヒロインを誘って一緒に王宮へ行くんだけど、それまでにアーネストとの親愛度が高い状態だと恋愛イベントが自動発生する。
このイベントは糖度が高くてアーネスト推しは大歓喜していた。確かに私もアーネストルートを攻略したとき、あまりの糖分供給に悶絶した。さすが、ランキング王者。
ただし、それはアーネストルートを攻略した場合だ。今ヒロインはアレクルートを攻略していてアーネストルートではない。それに友人関係だった私、ステラとの仲は最悪(関係を断ち切った)だ。
状況がゲーム通りじゃないために、この先の展開を読めずにいる。
いよいよ私の知識が通用しづらい状況にきているのかも・・・
紅茶を飲むふりをしながら考えていると、ふと視線を感じた。顔を上げるとやんわりと微笑んでるアーネストと目が合う。
「「・・・・・・」」
え、何?その目線。
ていうか、そのやんわりスマイル何??
「どうされましたか、殿下?」
別のことを考えていた事を悟られまいと瞬時に淑女スマイルを発動させる。
「ん?いや、何か他のことを考えていたのかなと思って」
(う、鋭い・・・)
「いえ?我がヴァルストレーム家にとってこんな栄誉なことはないですし、お父様やお母様の努力の賜物だなと感慨深く感じておりました」
「・・・そう」
ん? なんか、変なこと言ったかな?
「ん”んっ、それよりも殿下、お父様。私への話とはどのような内容でしょうか」
「それなんだがステラ。実はな・・・」
「ああ、伯爵。私から言わせてもらってもいいかい?」
「あ・・・それは構いませんが・・・」
言葉被せ気味の殿下、ちょっと圧が・・・ってか、ああ!お父様が落ち込んでる!
「ええと・・・?」
「君には私のパートナーになってもらおうと思っているんだ」
「・・・・・・は?」
パートナー?私が?なんの?
予想してなかった言葉に目を彷徨わせていると殿下は「ははっ」と笑った。
「ごめんね、唐突すぎたかな?」
「あっ、え・・・と。すみませ・・・ちょっと驚いて・・・パートナーというのはどのような・・・あの、大変申し上げにくいのですが、殿下と私では釣り合いが、取れないかと・・・」
「いや、ステラ。そうではないんだ」
戸惑う私をお父様が落ち着いた声音で「落ち着きなさい」と諭す。
「此度の舞踏会でヴァルストレーム家が陞爵すると分かれば、取り入ろうと貴族たちが寄ってくる。なにより一番標的になりやすいのは婚約者のいないお前やエヴァン、キーランだ。縁を繋ごうと必死になるのが目に見えている。ステラ、会場でむさ苦しい男どもに絡まれるのは嫌だろう?」
想像したら、全身鳥肌が立った。
ガチめに嫌だ。
「陞爵発表の場には家族で出席しなければならない。エヴァンやキーランにはお前を守るよう伝えておくが、完全に防ぎきれるとは限らない。そこで、アーネスト殿下が一役買ってくださると仰ってくれたんだよ」
アーネストが頷きながら話を続ける。
「今回の件でヴァルストレーム家は注目の的になるのは間違いないよ。陛下もね、君たちの事を心配していたんだ。幸い、私には婚約者がいない。ステラ嬢が当日のパートナーになってくれればお互いの風除けにもなる。決して悪い話ではないと思ってね」
なるほど、ヒロインがアーネストルートに入ってないから婚約者はおろか、恋敵役の令嬢すら出てきてないのか。
私としては面倒ごとを避けられるのなら、断る理由はない。
「そういうことでしたら、このステラ・ブリギッタ・ヴァルストレーム、殿下のパートナーの役目、謹んでお受けいたします」
私は立ち上がり、カーテシーをする。アーネストも応えるように立ち上がると、私の右手を持ち上げ、指先に唇を落とした。
「・・・っ、で、殿下?!」
アーネストは指に口づけたまま、視線を私に向ける。獲物を狙うような熱のこもった目にくぎ付けになる。ドキドキと心臓の鼓動が落ち着かない。徐々に顔が赤くなるのが分かり、耐えられなくなってアーネストから視線を逸らした。
「ステラ嬢は可愛いね」
アーネストはステラの耳元で囁く。ゾクゾクとした感覚が体中を駆け抜けた。思わず囁かれた耳を押さえ、仰け反ると満面の笑みのアーネストに瞠目する。
(ゲーム上でさえすごい破壊力なのに・・・三次元、罪深すぎる!)
◇◇◇
そんなこんなで今日に至るのだけれど。
我が家に届いた贈り物。
目の前には二つのトルソー、色もデザインもそれぞれ異なったドレスが飾られている。
ひとつはアーネスト殿下、もうひとつはアレクから。
アーネストは分かるとして、何故アレク? は?
なんだこれ・・・どうしてこうなった??
ようやく仕事が少しずつ落ち着いてきました。執筆する時間も少し取れそうです。
一部、加筆修正致しました。




