表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/21

ヒロインは戸惑う(side:ディアナ)

この世界に来て、10か月。

ヒロインの特定イベントが起きているのに変化が訪れないことに焦っていた。


重厚なストーリーに人気絵師を起用した見目麗しいキャラクター、人気声優を惜しみなく起用した「最高傑作」と呼ぶに相応しい人気ゲームがあった。それがStardust Gardenと呼ばれる乙女ゲームで、生前の私はこの「星庭」にハマっていた。


当時、大学生だった私「暁カリナ」は星庭の初日舞台を観終わり、帰りの電車を待つ間、感想を忘れないうちに書き込みたくてスマホのメモ帳に無心で書き込んでいた。集中しすぎて周りが見えてなかった私も悪いのだが、突然誰かに強く背中を押され、体勢を崩した。その際、ホームから転落。全身に強い衝撃を感じたあと、目の前が真っ暗になった。


消えゆく光と共に悲鳴のような叫び声がうっすらと聞こえ、瞬時に「死」を意識した。


底知れない恐怖を感じ、叫びながら飛び起きる。呼吸が荒くなって上手く息ができない。心臓の音がうるさいくらい耳に響く。私は咄嗟に自分の身体を強く抱きしめた。


「そ・・・だ。わ、わた、し・・・で、でんしゃ・・・」


ブルブルと体が震え、全身の体温が一気に下がったような感覚に陥る。背中を押されたとき、明らかな殺意を感じたのだ。押された瞬間を思い出し、徐々に視界が涙で歪む。ひとつ嗚咽を漏らせば、堰を切ったように涙があふれ、泣き崩れた。


どれくらいの時間が経っただろうか。


とめどなく溢れていた涙が出なくなった。目が腫れているのか瞬きするのも痛く、声も掠れ、体中が怠い。ふと、周りを見渡せば自分が草原の中にいることを自覚する。


「こ、こは・・・」

(確かホームにいたはず・・・)


視線を自身へ向ける。服はあの時の服装のまま。だがスニーカーの右片方が見当たらず、靴下だけになっていた。


(ここはどこ?一面の草原以外、なにも見えない)


だけど、妙な既視感を感じる。どこかの旅行先で見たのだろうか、そう考えに耽っていると、目の前がチカチカとして激しい頭痛に見舞われた。


「あ・・・ぅっ・・・」


頭を守るように両手で包み込む。痛みに耐えられず意識が遠のく刹那、一気に映像が頭に流れ込んできた。それはかつてカリナがこよなく愛した乙女ゲームのプレイ画面だった。


徐々に頭痛が治まり、抱えていた手がゆっくりと離れる。


「もしかして・・・」


ぼそりと言葉が出た直後、カリナは弾かれたように勢いよく駆け出した。先ほどの映像は間違いなく見覚えがある。何度も何度もプレイしたゲームだから忘れる筈がない。


(もし間違ってなければ近くに湖があるはず・・・!!)


途中、足が縺れて転びそうになりながらも速度は緩めず全力で駆け抜ける。やがて息が上がって辛くなってきた頃、水の匂いを感じて立ち止まった。


「はぁ、はあっ、はっ・・・」


体を前に倒し、胸を抑えながら大きく深呼吸を繰り返す。徐々に呼吸が落ち着いてくると、カリナは体を起こしてゆっくりと歩き始めた。向かっている先にエルモア王国唯一にして最大の湖である、ミュレ湖があるはずだ。


その場所でどうしても確認しなければならないことがある。暫く歩き進めると少しずつ視界が開けてくる。そして、大きな湖が姿を現した。


カリナは湖の淵まで足を運ぶと、膝をつき水面をのぞき込む。


マロンピンクの髪にオリーブブラウンの瞳が映りこむ。この姿に見覚えがありすぎて心臓が大きく脈打つ。星庭のヒロイン、ディアナ・フォン・シンクレア。


「私が、ヒロイン・・・?」


カリナは自分の顔をよく見たくて水面により近づこうとする。その時、右肩を思いきり後ろに引かれ、倒れた。


「おい!お前、何やってんだ・・・!!」

「えっ・・・?」


急に後ろに倒され、驚いたカリナは声のする方向へ顔を向けた。そこには、シルバーグレーの髪にブルーサファイアの瞳の美丈夫がなまじりを吊り上げ、不快そうな表情で立っていた。


「お前、まさか死ぬ気だった訳じゃないよな?!」

「な・・・ちっ、違います!そんな訳ないじゃないですか!!」


なんなんだ、いきなり人を後ろに倒しておいて。なんで私が怒られなきゃいけないの?!


「ったく、ここで死ぬとかやめてくれよ?後始末が大変なんだからさぁ」

「ちょっと!さっきからなんなの?!死ぬ前提で話進めないでくれ、る・・・?」


あれ?このやりとり・・・


カリナはハッとする。これはヒロインのディアナと攻略対象のアレク・ヴァレリー・ウォルシュとの邂逅シーンそのものだった。


それから、カリナもといディアナはアレクとの出会いを皮切りに、前世の知識と攻略を武器に攻略対象全員と面識を持つことができた。そのうえで、推しだったアレクルートを選択、概ねシナリオ通りに話が進んでいたかと思えた・・・あの告白を聞くまでは。


ディアナとしてこの世界に来て3ヵ月が経った頃、アレクから衝撃な事実を聞かされた。アレクはディアナの友人であるステラと密かに付き合っていたのだ。


ディアナは困惑した。まさか攻略対象とモブが恋人関係だなんて・・・


(アレクは私の攻略対象なのになんで・・・?このままじゃハッピーエンドどころか友情エンドになっちゃうよ!)


ディアナは3ヵ月後に訪れる「とあるイベント」でアレクとステラの関係を決裂させることにした。結果、ディアナの計画はうまくいき、アレクとステラは別れ、晴れてアレクと付き合うことになった。


そこまではいい。


だが新たな問題が出てきてしまった。ヒロインとアレクの仲が深まったら起きるイベント「舞踏会の一夜」が始まっているのに、舞踏会開催1ヶ月前にも関わらず、アレクから舞踏会の誘いが一向に来ない。


本来ならば舞踏会のダンスパートナーとしてアレクから誘われるはずなのだ。しかし、恋人からは連絡の一つもなく・・・ディアナは変わらない日常を淡々と過ごしていくだけ。


「どうして・・・ほんとだったらアレクが私の為にオートクチュールのドレスを作ってくれるはずなのに・・・」


ここにきてイベントが進まない。今まで順調に来ていたのに・・・


エンディングまであと2か月。所定イベントをすべてクリアしないとハッピーエンドを迎えることができない。


(そうよ、こうなったらステラの時みたいに仕掛ければ・・・イベントが動かないなら自分で動かせばいい)


ディアナは後ろ向きな考えを振り払い、アレクのところへ向かう準備を始めた。

いつも応援ありがとうございます。

ものすごくマイペースな更新ですが、最後までどうぞお付き合いくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ