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2-2.静かに、戦いは始まる

「ともかく、明日からは殿下もミシェルもわたくしも、皆、同じクラスになるはずよ。断固として殿下とミシェルの接触を妨害しなければならないわ」

「はい」


 ロズリーヌの言葉にジレットは力強く頷いた。

 お嬢様を差し置いてみすみす男に走るなど、あってはならないことだ。

 そう呟いて眉間にくっきり皺を寄せている。


「最悪、殿下への性交渉さえ妨害できれば希望は持てるの。決してふたりきりになどさせないよう、全力を尽くすわ」

「せい……」


 そんな単語をお嬢様が口に出すなんてと青くなるレイモンの横で、ジレットが同意するように固く拳を握り締めた。


「――でも、わたくし、男を相手に恋の鞘当て、なんてことをしなければならないのかしら。意味がわからないわ」

「お嬢様、私にもわかりません」

「俺にもちょっとそれは理解不能といいますか……」


 決意していきなりの暗礁に、ロズリーヌは途方に暮れてしまいそうだ。



 * * *



 翌朝、早い時間に学園の教室に到着すると、すでにミシェルがいた。

 危なかった、早めに来て良かったと考えつつ、ロズリーヌは「御機嫌よう」とにっこり微笑む。


 ここは上級貴族用の教室とあって、どこかのお屋敷のような調度で(あつら)えられている。座り心地の良いソファに、ソファに合わせるにはやや高いテーブルに、いつでも使えるティーセットに……と。

 ちょうど、貴族の子女が集まって勉強会でも開いているようなスタイルで、授業が進められるのだ。

 続き部屋には、生徒の侍女や侍従たちが控えることもできる作りだ。


 ジレットが一礼し、教室のティーセットへと向かう。問題がないことを確認すると、用意してきた茶葉とお湯で手際よくお茶をいれて、ふたり……つまりロズリーヌとミシェルの前に置いた。


「クレスト様、当家が常備している茶葉ですわ。よろしければ、どうぞ」

「ありがたく、いただきます」


 ロズリーヌはカップをそっと手に取った。それからかぐわしいお茶の香りを堪能し、ゆっくりとひと口含む。

 続いてミシェルもこくりとひと口飲んで、ほう、と息を吐く。


「さすがモンティリエ嬢の侍女殿。茶葉も見事ながら、淹れ方も見事ですね」

「ジレットは、わたくしの遠縁でもあるグレーズ子爵家の娘です。行儀見習いも兼ねてわたくしの侍女を勤めているけれど、どこに出しても恥ずかしくないほどに礼儀作法もしっかりとしておりますの」

「もったいないお言葉でございます」


 ジレットを見上げて、ミシェルはにこりと微笑んだ。

 女なら、きっと“美少女”と称されるような笑顔だ。なのに、紛うことなき男だし、体格や身長もロズリーヌとはまるで違う。


 何故この男に王太子を奪われねばならないのか。

 ロズリーヌの胸の奥は、キリキリと軋んで痛む。

 負けられない。

 新たな決意とともにジレットをちらりと見やれば、その調子です、と応援するかのように頷き返された。


「そういえば、クレスト様はおひとりなのですか?」


 教室に、ミシェルはひとりだった。侍従どころか護衛も使用人も姿がない。

 貴族であれば、通常なら最低でもひとりは付き人を連れて歩くはずなのにと訝しむロズリーヌに、ミシェルは首肯する。


「我が家は武門の家系ですし、辺境はこちらほど落ち着いておりません。いざという時に自分で自分の面倒を見られないようでは、出遅れてしまいますから」

「まあ」


 なるほどと感心したそぶりを見せつつ、ならばますますこいつに王太子は渡せないと考える。

 男色に落とされた上、そんな危険な地に王国の至宝である王太子を連れ去られるなんて、心の底から冗談ではない。


「クレスト様には、婚約者などはいらっしゃらないのですか?」

「え? あ、いえ。まだ決まってはおりません。その……どうも俺は、女性にあまり好かれないようなので」


 ほんのりと薔薇色に染まる頬を眺めて、ロズリーヌはそれはそうだろうと納得する。

 これほどの美少女ぶりを発揮する顔を、毎日見せつけられるのだ。心穏やかでいられるわけがない。


 そこまで考えて、ハッと気付いた。

 つまり、この美少女然とした顔から、王太子を落とすということか。


「クレスト様は、お美しいですものね」

「はい?」

「たしかに、並の娘では気後れしてしまうのではないかしら」

「いや、それはあまりうれしくないといいますか……」


 ふふ、と笑うロズリーヌの後ろで、ガチャリと扉が開いた。

 振り向くと、そこには王太子が佇んでいた。


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