【大精霊に抱かれて 〜聖エレメント学園物語〜】
乙女ゲームに、「大精霊に抱かれて ~聖エレメンテ学園物語~」というタイトルがあった。
学業に運動に女子力に、様々なステータスを上げつつ、よりどりみどりの中から好きなイケメン男子たちの好感度を稼いで攻略しようという、あるあるシナリオの乙女ゲームだ。
何だかんだ、オーソドックスながらもそれなりに練られたシナリオとシステムにみんな大好き王道ストーリーということもあって、そこそこ売れたタイトルだ。
が、何をトチ狂ったのか、その「SideーB.」――つまり、美少女ゲーム版が発売された。
ヒロインをそのまま男性化し、攻略対象にはかつてライバルや悪役として立ち塞がった令嬢たちを据えて、悪役やライバルには攻略対象だったイケメンたちをシフトして……いったいどこを狙ったスピンオフなんだ? と言われる作品だった。
もちろん、最大の悪役は、本家でメイン攻略対象を張ったシルヴェストル王太子殿下だ。
そして、さすが完璧王太子殿下を標榜する王族とあって、繰り出す妨害もえげつない。
王室付きの諜報員やら騎士やらを惜しみなく使い、影から日向から元悪役令嬢ちゃんの攻略を妨害する、完璧な悪役王子様だ。
下手を打てば即不敬罪で捕らえられるし、ひとつ間違うと実家ごと取り潰されるし……設定を逆転したうえに難易度爆上げと言われたこのゲームは、マニアックな層にはそこそこ売れたらしい。
しかもこのSideーB.の隠しキャラは元悪役令嬢ちゃんの侍女だった。
おまけに、その侍女ちゃんを攻略しようとすると、元悪役令嬢ちゃんが最終的な障害として立ち塞がることになるという。
これ、マジでどこ狙いのゲームなの?
という誰得シナリオだったせいなのか、そもそも的を外しまくったせいなのか、目標の売り上げにははるかに及ばず、スピンオフ第二弾として囁かれていた「Side.BL」の開発は中止になってしまったという。
――にゃあんて、そんなタイトルが存在した事実なんて、どこにもなかったんだけどね!
* * *
この世界は、精霊によって創られた。
はるか神代の昔には、光の大精霊と闇の大精霊がともに手を取り合い、地水火風の四大精霊とともに、今よりももっと世界に干渉していたのだ。
けれど、既に神代は終わり、世界を担うのは人間の役目となって久しい。
大精霊が世界に干渉することはなくなり、人間たちはただ、大精霊を信仰するのみに止まっている。
魔法だって、失われて忘れられて久しい時が過ぎている。
それでも時折、退屈した大精霊がひっそりこっそりと人間にちょっかいを出してしまうことがあるのだけど。
ルーヴァン侯爵家の庭の片隅で、豊かで長い被毛の少々大きな猫が、優美ににゃあと鳴いた。





