12-2.戦え、悪役令嬢ちゃん!
「ジレット」
「王太子殿下」
じっと勝負の行く末を見守るジレットの横に、いつの間にか王太子が来ていた。慌てて立ち上がろうとするジレットを制して、王太子はそのまま横に座る。
「今のところ、ロズリーヌが押しているようだが」
「はい、お嬢様の槍術はオーギュスト様自らが鍛えましたから。そこらの殿方がお嬢様に敵うはずありません」
「ああ、そうだね」
得意そうなジレットの言葉に、くすりと王太子が笑った。
実際、ロズリーヌはミシェルを押している。
舞うようにくるりくるりと回転する長槍から、鋭く刺すような斬撃が引っ切りなしに繰り出されるのだ。ミシェルもさすがに攻めあぐねてか、なかなか間を詰めることができずにいる。
「でも、お前はそれでいいのか? ロズリーヌが勝てば、ミシェル・クレストはお前から手を引くわけだが」
「それは……」
ハッと目を見開いてジレットは押し黙り、じっとふたりの攻防を見つめる。
「私はもちろんロズリーヌが勝つと信じているが、お前はそれでいいのか?
お前がロズリーヌに誠心誠意仕えているのはよく知っているけれどね」
ロズリーヌの攻撃は激しさを増していた。軽やかなダンスのようにステップを踏むロズリーヌの足元も、まだしっかりとしている。
けれど、勝負が長時間に及ぶ前に決着をつけようと考えているのだろう。ミシェルはまだまだ体力を残してはいるが、防戦一方に追い込まれている。
ロズリーヌが今のように動ける時間は長くないとはいえ、体力切れを待てるほどの余裕はない。
「私は……」
「ゆっくり考えるといい――と言いたいが、あまり時間はないだろう」
ガン、ガンと武器の当たる音が大きくなる。
ロズリーヌの攻撃は重さも増しているようだ。くるくると回転が生み出す勢いの十分に乗った一撃を、ミシェルはかろうじて盾で捌いている。
ジレットの知る限り、ロズリーヌはこれまで文武ともに手を抜かず、ひたすらに努力を重ねてきていた。
もちろん“ヒロイン”に勝利するために、だ。
――“ヒロイン”がミシェルだったおかげで、ずいぶんおかしな方向に迷走してはしまったけれど。
ミシェルは相変わらず攻めあぐねているようだった。
ロズリーヌはたしかに強い。
けれどミシェルはそれでも本気を出していないように思えて、ジレットは眉を顰める。
ロズリーヌを慮ってのことだろうか。それとも、ジレットの主人を傷つけてはいけないと考えてのことだろうか。
そんな覚悟で、ジレットのお嬢様が納得するとでも思っているのか。けれど、ジレットの内に「それでも」ともやもやした何かが渦巻くのは確かだ。
「――お嬢様を負かせる腕のない者に、お嬢様が私を預けるとは思えません」
「なるほど。さすがロズリーヌの侍女だな」
どこか自分に言い聞かせているようなジレットを見て、王太子はおもしろそうに目を細める。
鋭く打ち込まれた刃を剣で受け止めたままの姿勢で、ミシェルとロズリーヌはギリギリとせめぎ合う。
「ミシェル。お前、そんなことでジレットを手に入れられるとお思い?」
「モンティリエ嬢」
「ほほ……わたくしを舐めてもらっては困るわね。わたくしは、お前に打ち勝つために鍛錬を重ねてきたの」
「ぐっ」
一瞬力を抜いて体勢を崩したところに、ロズリーヌは槍の石突を叩き込む。
「わたくしを討ち取る覚悟もない者にわたくしが負けるはずなどないわ。
そもそも、その程度の者にわたくしの大切なジレットを渡すなど、たとえ天が落ちようともありえなくってよ」
「だが……」
「お黙り。御託は勝ってから並べることね」





