12-1.“ゲーム”は終わりを告げる
夜会は、王太子の熱愛告白に始まり侯爵家令嬢と辺境伯嫡子の決闘宣言に終わるという、謎の展開を見せた。
「でも、こんなのイベントに無かったわよね……?」
ぼそりと呟くロズリーヌに、王太子はくすりと微笑む。
「それはそうだよ、ロズ。もう“ゲーム”は終わったということだ」
「シルヴィ様……でも、わたくしはまだ……」
「これまでだって、細かいところはいろいろと変わっていただろう? これも、ロズの記憶とは少し違っていただけのことだ」
「そう……そうですのね」
ロズリーヌは考え込む。
たしかに王太子の言うとおり、これまで記憶とまったく同じ“イベント”はなかった。なら、これは……。
「わかりましたわ。明日の決闘で晴れて勝利を手にすれば、わたくしにとってのハッピーエンドということになるのですわね」
「ロズ?」
「シルヴィ様、明日はしっかりとお見届けくださいませ。シルヴィ様にふさわしいのは紛うことなきわたくしであることを、必ずや証明いたしますわ」
ほほほほほとひとしきり高笑いをして、ロズリーヌはレイモンを呼ぶ。
「わたくしの武具を用意なさい! 今夜は少し勘を取り戻すことにするわ。お前が手合わせの相手をするのよ」
「はい、お嬢様」
「では、シルヴィ様」
振り返ったロズリーヌは、以前よく目にした勝ち気な笑みを浮かべていた。
「明日は必ず、わたくしの勝利をご期待くださいませ」
「ああ、もちろんだ、ロズ」
明日の用意をするからと、ロズリーヌは暇を告げて馬車に乗り込んだ。王太子は呼び止めようとして……結局やめた。
ロズリーヌは完全にいつもの調子を取り戻したし、この勝負が“記憶”の最後なのだと認識している。
なら、問題ない。
* * *
翌日、約束の時間。
戦装束を整えたロズリーヌは、宣言どおり運動場でミシェルを待ち受けていた。
スリットの入った動きやすいスカートに、身体の要所を守る鎧。
そして、鋭い穂先の代わりにやや大振りの平刃のついた長槍を携え、腰には細剣も下げている。
程なくして、きちんと武装を整えたミシェルも現れた。
困惑を顔に浮かべて。
「――モンティリエ嬢、本当に、決闘するんですか?」
「あら、ミシェル・クレスト。もしや怖気付いたとでも言うのかしら」
「いや……万が一怪我をしてしまったら、どうするのかと」
「ほほ、つまり怪我が怖いということね。ならば、わたくしの不戦勝ということにしてもよろしいのよ?」
ミシェルは小さく溜息を吐く。
ここまで言われては、しかたない。
「わかった。なら、怪我をしても恨みっこなしで」
「当然よ」
審判は学園の武術教官だ。
やや諦め顔で王太子を見やり、頷くのを確認した。
「両者、位置について」
ロズリーヌとミシェルが各々武器を手に向かい合う。
「意識を無くす等で継戦が困難となった場合、どちらかが降伏を認めた場合はそこで終了だ。いいな?
それでは――はじめ!」
ロズリーヌは素早く踏み出した。
流れるように槍を振り、ミシェルの手元を狙う。いかに決闘であっても生命を奪うことは許されていない。だから、手っ取り早く武器を狙ったのだ。
だが、ミシェルはうまく盾で受け流した。
すぐに剣の間合いに持ち込もうと、数歩踏み込んでロズリーヌに迫る。
ざっと下がって距離を保ち、ロズリーヌはまた油断なく槍を構える。
ロズリーヌが並々ならぬ技量を持っていたとしても、男女の体力差を埋めることは難しい。ましてや、辺境で剣を磨いたミシェルが相手だ。同じ得物を選んでいれば、勝ちはあり得ない。
だからこその槍だ。
そもそもロズリーヌは槍術のほうがずっと得意だ。
それに槍と剣では間合いが違う。剣の間合いに踏み込ませないという条件下であれば、槍の方が有利に戦える。
なら、このまま間合いを生かして押し勝つしかない。





