10-3.終わりを始めよう
「お嬢様、殿下より、夜会のドレスが届きましたよ」
「まあ」
「殿下の髪色にお嬢様の髪色で、こんなにすてきに……きっとお嬢様によくお似合いですよ。明日が楽しみです」
メイドたちが取り出したのは、見事な黒絹に銀糸の刺繍で飾られたドレスだった。自分と王太子の色で仕上げられた豪奢なドレスに、ロズリーヌはうっとりとうれしそうに笑って、それからはたと気付く。
これ、おかしくないか、と。
次に来るのは断罪イベントなのだ。
イベントの中で、ロズリーヌは自分で用意したドレスに身を包み、屈辱感に打ち震えながらひとりで会場に向かう。
その会場で、王太子に寄り添うヒロインを目の当たりにして――
いや、違う。王太子は毎日これでもかというくらい、ロズリーヌに愛を囁いている。
それにロズリーヌはミシェルを陥れたりはしていない。だから、断罪イベントは起こらないし、ロズリーヌにとってのバッドエンドもないはずだ。
でも。
「――おかしいわ」
「お嬢様?」
「わたくし、確認してこなくちゃ」
「お嬢様!」
一瞬の後にロズリーヌは部屋を飛び出し、駆け出した。レイモンもジレットも慌てて追うが、やはりロズリーヌの足は速い。
ふたりは必死に走るが、ロズリーヌの背はあっという間に寮の外へと消えていく。
「ミシェル・クレスト! 開けなさい!」
ロズリーヌの行き先は、もちろんヒロイン……ミシェルの部屋だった。
寮の入り口も何もかもをぶっちぎって走り抜け、ドンドンと部屋の扉を叩き、ロズリーヌはミシェルを呼ぶ。
「早くお開け!」
「なんでモンティリエ嬢? 寮監が入り口にいたはずでは」
「細かいことはどうでもいいの。お前のところにもドレスがあるでしょう? 今すぐここにそれを出しなさい」
扉を開けたミシェルと揉めるロズリーヌを、居合わせた生徒たちがいったい何事かと遠巻きに見る。
「えっ、モンティリエ嬢……なんでそれを」
思わず部屋に視線を向けるミシェルに、ロズリーヌの眉が吊り上がった。
思ったとおり、ミシェルの元にもドレスが届いているのだ。さすが王太子。危うく騙されるところだったが、そうは問屋が卸さない。
「やっぱり……やっぱりお前にもドレスが届けられていたの。わたくしはカモフラージュということだったのね」
「――は?」
「実物を見るまでもなかったわ。語るに落ちるとはこのことよ」
だが、ミシェルは混乱する。
何が何のカモフラージュだというのか。
いったい何が語るに落ちているのか。
何故こっそりとジレットのためのドレスを用意していたことがバレたのかもわからなければ、それがカモフラージュだと言われる理由もわからない。
ロズリーヌが“記憶”に踊らされているということは知っていても、何をどう踊らされたらこんなことになるのか。
そもそも、未だに妙な誤解があるとして、なぜそれがミシェルの元にドレスがあることと繋がるのか。
「いいわ、ミシェル・クレスト……明日、すべての決着をつけましょう! わたくしは逃げも隠れもしなくてよ。お前も首を洗って明日を待つがいいわ!」
いったい何の決着をつけると言うのだろう。
たしかに明日は、王太子提案の“断罪イベント”を逆手に取ったあれやこれやを計画してはいるが……。
ミシェルに言い返す隙も与えず、ロズリーヌは高笑いを残し、また風のように走り去ってしまったのだった。





