9-3.仕事し過ぎな違和感
三日ほど離宮で過ごした後、また、聖エレメンテ学園での生活に戻った。
もちろん、元どおりというわけではない。
事件の前に比べてロズリーヌと王太子の距離はあからさまに近くなったし、王太子のロズリーヌに向ける笑みも一万倍は甘くなっているし、王太子は時間を割いてでもロズリーヌと共に過ごすようになったからだ。
けれど。
「ジレット、レイモン、話というのは?」
夜、眠りについたロズリーヌをしばしメイドと護衛に任せて、ジレットとレイモンは王太子を訪ねていた。
もちろん、ロズリーヌのことでだ。
「お嬢様のことです。レイモンとも相談したのですが、やはりこれは殿下にも申し上げておかねばと考えまして……」
ふたりを招き入れた王太子は、先を促す。
「その……にわかに信じがたいとは思うのですが、お嬢様には、未来の“記憶”があるというのです」
「未来の“記憶”?」
ジレットは頷いて、ロズリーヌの“記憶”について話す。
今まで何度も繰り返し聞いてきたことだ。
“乙女ゲーム”から始まって、“ヒロイン”や“イベント”のことなど、ジレットは淀みなく話していく。
「なるほど、それで、私のあの疑惑か……」
王太子は小さく溜息を吐いた。
噂の出どころなど、いくら調べてもわからないわけだ。すべてロズリーヌ自身の“記憶”とやらが根拠だったのだから。
「だが、ロズリーヌだってその“記憶”が間違いであることはわかったのだろう?
私は間違っても男色などではないし、私の心がロズリーヌにあることを、毎日あれほど教えているのだから」
「はい、そうなのです。お嬢様も、ちゃんと理解されているはずなんです」
ジレットは、憂うような表情で視線を落とす。
「殿下。ジレットの言うように、殿下のお気持ちは間違いなくお嬢様に届いています。しかしそれでも、お嬢様は未だに“記憶”に囚われているようなのです」
「レイモン、何故そう思う?」
「わかりません……ただ、お嬢様は、今起きている出来事を、無理やり“イベント”に当てはめることがやめられないというか……クレスト様が男性だったから詳細に変化があっただけで、今も、その“乙女ゲーム”どおりに時が進んでいるのだと信じている節があるのです」
王太子はぐっと眉を寄せた。
たしかに、ロズリーヌは未だにどこか戸惑っているような態度を取るし、こんなはずがないと考えているようでもある。
ときおり、不安そうな表情で王太子を見つめていることも知っている。
「その“記憶”というのは何なのだ」
「わかりません。昔、お嬢様が高熱で倒れた時に見た夢を信じ込んでしまったのだとばかり、思っていたのですが」
「夢、か」
しばし考えて、王太子は「わからん」とやっぱり溜息を吐いた。
「夢は大精霊の領域だ。ならば神官に聞くべきだろう。たしか、この学園にも神官見習いがいたはずだな。明日にでも尋ねてみるか」
ロズリーヌの“記憶”の話は、明日まで棚上げとなった。





