7-3.悪役令嬢、危機一髪
外はどんどん騒がしくなっていく。
待ち伏せていた賊が出てきたのだろう。ジレットはそっと外を伺った。
ほんとうなら、御者は護衛を置いて馬車を走らせ始めるはずだ。それができないのは、街道を完全に塞がれているか、馬か御者がやられたか……いずれにしろ、あまりいいことではないはずだ。
大きな街道だし、王都からそれほど遠くないからと、最低限の護衛だけにしたのは間違いだったのか。
ジレットは、なんとしてもロズリーヌだけは逃さなくてはとひたすら外の様子を伺っている。
どん、と車体に何かが当たる音や、剣戟の音まではっきりと聞こえるようになる。
外に逃げ出すより、ここに籠城するほうがよいだろうか。
ロズリーヌは、荷物の中から手持ちの宝飾品を取り出した。
「お嬢様?」
「いざとなったら、これをばら撒いて逃げるのよ。きっと拾うのに夢中になって、わたくしたちを見逃すわ」
「お嬢様、いけません」
「わたくしはお前をグレーズ子爵から預かっているの。お前を囮になんてできるわけないわ。レイモンにだって、顔向けできなくなってしまう」
「お嬢様……!」
車内にあった小剣を取り、柄をしっかりと握り締めたジレットと、宝飾品のカバンを抱き締めたロズリーヌは身を寄せ合う。
周囲の騒ぎも剣戟も、激しさを増しているようで……。
急に、角笛を吹き鳴らす大きな音が響いた。どかどかと走り来る騎馬の蹄の音に混じって、誰かの声も聞こえる。
ロズリーヌとジレットが、顔を見合わせた。
じっと耳を澄ませて、「まさか」と呟く。
「まさか、まさか」
「ええ、ええ、お嬢様。あれは警備隊の合図の角笛です!」
ポロリとカバンを取り落としたロズリーヌと小剣を落としたジレットは、助かったと手を握り合った。
「やはり王国の街道警備兵は優秀ね。わたくしたち、助かったのだわ」
「お嬢様、はい、そのとおりですとも!」
手を握り合ったまま、ふたりは馬車の床にへたりと座り込む。安心して気が緩んだのか、今さらのように、カタカタと震えが止まらない。
そこに、扉ががちゃりと開いて「ロズリーヌ!」と王太子が覗き込んだ。
ロズリーヌは驚きに目を見開いたまま、固まってしまう。
「殿下……」
「ロズリーヌは無事か!」
「お嬢様はこのとおり、無事でございます」
伸ばされた王太子の手で、ぐいと身体を引き寄せられた。
気づいた時にはしっかりと抱き込まれていて、ロズリーヌは呆然とするばかりだ。
「震えているな、ロズ。だが、無事で……間に合ってよかった。ディオン、馬をこちらへ」
「殿下……何故、ここに」
「モリス、後の処理は任せる。ディオンは先触れとして私の離宮へ向かえ」
ディオンもモリスも頷いて、ただちに指示のとおりに動き出す。
王太子はロズリーヌをそのまま鞍に押し上げると、自分も後に続いた。
「殿下、こんなところに出てくるなんて、危険です」
「問題ない。しっかりと掴まるんだロズ。顔は伏せておけ。女性が見ていい光景ではない」
王太子は鞍上でしっかりとロズリーヌを抱きかかえ、顔を自分に伏せさせた。ロズリーヌには、何故そんなことになっているのかがわからない。
「あの、殿下? ジレットが」
「ジレットは心配ない。ミシェル・クレストが連れてくるだろう。さあ、口を閉じていろ。結構揺れるぞ」
「殿下……!?」
王太子はロズリーヌの頭にひとつキスを落とすと、ぴしりと手綱を打って馬を走らせ始めた。





