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行け、悪役令嬢ちゃん! in Narrope  作者: 銀月


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25/50

7-1.悪役令嬢、あなた疲れているのよ

 ロズリーヌはまた部屋の隅に蹲っていた。

 壁に渦巻きを描きながら。


「お嬢様……」


 ジレットが痛ましげにロズリーヌを抱きかかえる。


「わたくしはそれ程までに侮りやすいと思われているのかしら」

「そんなことありません! クレスト様が浅慮なだけですよ!」

「それに、わたくしと“友人”としてだなんて、どういうつもりなの」


 そもそも、乙女ゲームのはずがBLゲームだったという時点でいっぱいいっぱいなのに、ミシェルがいったい何を考えているのかがわからない。

 王太子を男色に落とすだけに飽き足らず、ロズリーヌまで、引いてはルーヴァン侯爵家をも抱き込もうというのか。


「――まさか、お父様のことまでを落とそうというわけじゃないわよね?」

「それこそまさかです、お嬢様。旦那様は奥様ととても仲睦まじくいらっしゃいます。他人の、ましてや男色の入り込む隙などありません!」


 でも、とロズリーヌは不安げに表情を曇らせた。

 レイモンが「お嬢様」と呼び掛ける。


「少し休まれてはいかがでしょうか。ここのところ、あまり心安らぐことがありませんでしたし……心身ともに健やかでなければ、良い考えも浮かばないでしょう。どうですか、お嬢様?」

「でも、わたくしは殿下をお守りしなくては――」

「代わりに、俺が見張りますから。俺の命に代えても殿下にはクレスト殿を近づけません。ですから、お嬢様は少しだけでもお休みください」

「でも、レイモン」

「大丈夫ですよ、俺にお任せください。そうですね……少し季節は早いですが、一番近い別邸で、何も考えずに数日ゆっくりと過ごされてはどうでしょう。学業も、数日程度のお休みであれば、お嬢様なら問題ありませんよ」


 しばし考え、それからこくりと頷くロズリーヌに、レイモンは安堵する。

 最近ずっと顔色も冴えなかった。だんだんと余裕をなくしているようでもあって、ずっと気になっていたのだ。


 ジレットに促されてゆったりとした服に着替えて、ロズリーヌはお茶の香りをそっと味わった。

 レイモンの言うとおり、自分は少し疲れているのかもしれない。


「ジレット、こちらへ」


 レイモンは妹を呼んで、小さく耳打ちをした。


「俺はディオン殿に少し状況を伺ってみるよ」

「兄さん」

「ディオン殿だって、殿下が王族としての義務を果たすことを望むはずだ。

 もし本当にお嬢様の言うとおり“落ちて”いるなら、ディオン殿もお嬢様に協力してくれるだろう?」

「――たしかに、そうかもしれないけど」

「だから、お前はしっかりとお嬢様を見ていてくれ」

「わかったわ」


 ともかくお嬢様に静養を、とジレットは必要な手配と準備に取り掛かる。



 * * *



 翌日、馬車を見送ったレイモンは、教員室に向かった。届けは昨日のうちに出してはあるが、改めて担当教員にあいさつをしておくのだ。


「レイモン殿」


 呼び止められて振り返ると、ディオンだった。

 ほっとしたような顔で、足早に寄ってくる。


「よかった、探しました」

「ディオン殿、どうしました?」

「今朝、いつもの時間にロズリーヌ様がいらっしゃらないので、殿下が気にしておられるのですよ」

「ああ……殿下にも、ごあいさつ申し上げようと思っていたところです。このまま参りましょう」


 レイモンはディオンと並んで歩き始めた。お互い、高貴な主人に仕える者同士、これまでも気安く言葉は交わしてきた。


「ディオン殿」

「はい?」

「その……非常に聞きづらいことではあるのですが、殿下は、ほんとうに男色家になられたのでしょうか」


 ぶふ、とディオンが吹き出した。

 笑っているのか驚いているのか、ひとしきりげほげほむせってから「いえ」と首を振る。


「殿下が男に走ったことなど、これまで一度たりともありませんよ」

「ですよね――ああ、よかった」


 レイモンが目に見えてほっとする。

 ディオンは数度まばたきをして、「それにしても」と続けた。


「何故、ロズリーヌ様はミシェル様が殿下の貞操を狙っているなどと?」

「いえ、それは俺が勝手に話してしまうことはできないので……けれど、たぶん……その、誤解ではあると思うのですよ」

「そうですか。どこでそのような誤解が生まれたかは知りませんが、殿下が男色などとはとんでもないことです」

「はあ」


 王太子が男色などではなかったことには、心の底から安心した。

 やはり、ロズリーヌのあれは高熱が見せた単なる夢で、おそらくはよくできた夢だったからこそ、勘違いに繋がってしまっただけなのだ。

 なら、あとは思い込みを解いて、ふたりの仲をうまく取り持てばいい。


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