6-2.大丈夫、まだセーフ
レイモンの声に、ロズリーヌはうずくまったまま、ただ首を振るだけだった。
「レイモン、慰めなんていいのよ」
「いえ、お嬢様、思い出してください! おふたりとも服は着たままでした! 脱いでませんよ!」
「――え?」
ぬいでない、とロズリーヌが呟くと、ジレットも「あっ」と声を上げた。
「そうです……そうですともお嬢様! レイモンの言うとおり、おふたりとも着衣のままでした! 下履きの前立てすら開けておりませんよ!」
「ほんとうに?」
「ほんとうです!」
力強く頷くジレットに、ロズリーヌは泣き笑いするように表情を崩す。
「それなら、わたくしはまだ間に合うの?」
「はい、お嬢様。お嬢様の介入で萎えてその気は無くなってるはずですよ。大丈夫。未遂ですらありません。俺が保証します」
ようやくほっと笑みを浮かべるロズリーヌは、けれどまた顔を曇らせた。
「わたくし、殿下の前で狼藉を働いてしまったわ」
「お嬢様……クレスト様には、謝罪を申し入れましょう」
「――借りを、作ってしまったということね。
けれど、ミシェル・クレストはわたくしを許すかしら。これ幸いと、わたくしに手を引くよう要求するのではなくて?」
ロズリーヌは諦めたように眉尻を下げる。
「いえ、そうね……このまま放って、家同士の揉め事にまで発展してしまってはいけないわ。つい逆上してしまったわたくしの落ち度ですもの。
けれどジレット。わたくし、謝罪はしても殿下のことは絶対に譲らないわ」
「それでこそ、お嬢様です」
ロズリーヌは小さく溜息を吐くと、決意も新たに傲然と顎を逸らした。
「わたくしは絶対に負けないわ。BLヒロインなんかに殿下を渡さなくてよ」
* * *
翌日、いつものとおりに教室に入ると、ミシェルが待っていた。少し固い表情で、「ご機嫌よう、モンティリエ嬢」と会釈をする。
ロズリーヌも身構えつつ、「ご機嫌よう、クレスト様」と返した。
「モンティリエ嬢、少し話をしたいのですがよろしいでしょうか」
「願っても無いことですわ。わたくしも、クレスト様にはお話がありますの」
ミシェルがほっとしたように表情を緩める。
ロズリーヌはいよいよ直接対決かとごくりと喉を鳴らした。震えているのは、きっと武者震いというもののせいだ。
「くっ、クレスト様には、昨日の無礼を謝罪申し上げます!」
「あ……いえ、あれはお気になさらずに。そもそも、女性の一撃で膝を折ったなんて父に知れたら、油断が過ぎると叱られることになってしまう」
「それでも、謝罪を申し上げます……けれど、これに乗じて殿下から手を引けは無理な相談だと、最初に申し上げておきますわ」
「いや、その……」
ミシェルは困ったように視線を泳がせた。
その表情に、ロズリーヌはやはりと確信を深める。
「俺は、そんな要求をするつもりは無いのですが」
「まあ、殊勝なことですわね」
ロズリーヌは、ほほ、と笑う。ではどんな要求をぶちかますつもりなのか。
だが、それが王太子の進退にかかるものであるなら、ロズリーヌは絶対に受け入れるつもりはない。
「あの……モンティリエ嬢。ひとつお聞かせ願いたいのですが、何故、俺が男色で殿下の貞操を狙ってるなどという話になっているのですか」
「――まあ!」
ロズリーヌは驚いたとばかりに目を丸くした。
それほどに当たり前のことなのかと、ミシェルも少なからずショックを受ける。
「そんなの、クレスト様が男だからに決まっているではないの」
「は?」
「まだ女であれば同じ舞台で戦えたのに、男で現れるなんて卑怯だわ……でも、わたくしは負けない。絶対に、クレスト様に殿下は渡さなくてよ!」
「いや……その、なんで? なんで俺が男だと殿下狙いになるの?」
「ふふ……そうやって謀ろうとしても無駄ですわ」
だめだ、話が噛み合っていない。





