5-1.闇討ち、よくない
「斯くなる上は、やはり証拠を残さずに抹殺かしら」
「お嬢様、物騒な手段はさすがに賛成致しかねます。もう少し穏便に、せめて社会的に抹殺くらいで勘弁しませんか」
「そうね……けれど“証拠を残さず”という点が難しいわ。何しろ、“ゲーム”では簡単に暴かれていたもの」
宣戦布告はしたものの、それからどうやってミシェルを蹴落とせばいいのか、今ひとつ良い方法が浮かばなかった。
少なくとも、王太子への男色疑惑が持ち上がったりしてはならない。
ミシェルに、王太子の貞操を奪ったなどと言いふらされてもいけない。
あくまで、すべて秘密裏にコトを進めなくてはならないのに……。
「さすがのわたくしでも、そこまでの伝手はないのよ」
父や兄なら、そういう伝手を知っているのかもしれない。
けれど、まだ十六でしかも令嬢でしかない自分に、そんな伝手を使わせてもらえるとも思えない。
おまけに相手は次期辺境伯。
下手を打てば一瞬で潰される――物理的に。
* * *
「ようやく時間が取れたな……では話を始めようか、ミシェル・クレスト」
「はい、殿下」
ロズリーヌと自分の認識に、何か決定的な齟齬があるようだ。
先日の密会現場に踏み込んでわかったのは、それだけだった。だから、お互いの話を擦り合わせ、今の状況を整理すべきだと考えたのだ。
ただ、学園ではまずい。
ロズリーヌは、とにかく王太子とミシェルが接触することをこころよく思っていない。少し言葉を交わそうとするだけで、必ず邪魔をされてしまう。
何故ああも執拗に妨害するのかはわからないが――
ともかく、王太子は侍従に命じて王都内に部屋を用意させ、ミシェルを呼び出した。
念には念を入れ、ロズリーヌには決して悟られないよう、用心を重ねて。
「お嬢様!」
「どうだった?」
「どこにもいらっしゃいません」
「クレスト様も、見当たりません」
ロズリーヌは拳を握り締める。
王太子が何か画策しているらしいことは察知していた。
けれど、ロズリーヌの努力により最近は諦めたようであったし、何より、次に来るのはロズリーヌがミシェルを闇討ちのうえ亡き者にしようと謀るイベントのはずだ。王太子が何かをするものではない。
ついでに、ロズリーヌには闇討ちの手配なんてできていないし、実行の目処すら立っていない。
だから、しばらくは何事も起こらないのでは……などと楽観していたのだ。
そこで、ロズリーヌはひとつ思い出す。
「わかったわ、いちゃラブイベントね」
「は、いちゃらぶ、ですか?」
「そう。ただひたすらいちゃいちゃラブラブして、ふたりの愛を確かめるだけのイベントが、ランダムに挟まれるはずなの!」
「はあ……」
いちゃらぶとは何かと思ったが、そういうことか。
けれど、ジレットにもレイモンにも、最近少し気になっていることがある。
もしやロズリーヌは、起こった出来事に無理やりその“イベント”とやらをはめ込んでいるだけではないのか、と。
だが、たしかにそんな疑念が浮かばないではないが、完全に否定もできず……レイモンとジレットは顔を見合わせる。
何しろ、起こった出来事と実際にロズリーヌの言う“ゲームのイベント”が連動しているようにも思えて、否定し切れないのだ。
それにしても、男ふたりが公然と“いちゃらぶ”をできるような場所などあっただろうか。
疑問ではあるが、これまでもこういうことでロズリーヌが口にしたことは、だいたい外れなかった。
ならば、探さねばならないだろう。
「ではお嬢様、しばしお待ちください。調べて参りますから」
「ええ、お願い。おそらくは学内のあまり人の寄り付かない部屋か……いえ、きっと学外ね。町の高級宿の一室……ちがうわ、それよりも、普通なら男女ふたり連れで入るような、少しいかがわしい宿ではないかと思うの」
「わかりました」
あのゲームは成人指定だっただろうか。
すぐに走り出すレイモンを見送りながら、そんなことまで考えて、ロズリーヌの心臓の鼓動が速くなる。
さすがに学内で盛るような無分別ではなかったようだが、学外の、それも連れ込み宿のようなところではわからない。
ほんとうに王太子の貞操が奪われてしまったら、戻れなくなってしまうではないか。せめて世継ぎを設けた後なら諦めもつくが、今、男色にはまられて「女は抱けない」などと言い出されるのは困る。
“男の味を覚えたので女には勃たなくなってしまった”なんてBLにはありがちなのに、非常に困る。
王太子の次に王位を継承できるのは誰だったか……そこまで考えて、ロズリーヌは身体を震わせた。





