4-2.王国の未来はどっちだ
ロズリーヌは戸惑っていた。
この呼び出しに、いったいどんな意味があるのかと。
「ジレット、レイモン、どう思う?」
「お嬢様の知る“イベント”ではないのですか?」
「わたくしがヒロインに呼び出されるようなイベントは、無かったと思うわ」
人伝てに渡されたメモには、“あの談話室で待つ”という言葉と、ミシェルの署名があった。
だが、いったい何故ミシェルからこんなものが来るのか、心当たりはない。
王太子に迫られるミシェルを目にしてから数日、ロズリーヌはミシェルとも王太子ともろくに話をしていなかった。
どちらかと言えば、徹底的に避けていた。
たとえ王太子相手でも、ひとたび話をすることになれば、きっととんでもないことを口にして責めてしまう。
ましてや、ミシェル相手ではなおさらだ。
「ではお嬢様、お断りしますか?」
「――いつまでも避け続けることもできないわよね。受けて立ちましょう」
「わかりました」
そう。逃げてばかりではしかたない。
このまま逃げ続けることも、性に合わない。
レイモンが了承の言葉を伝えると、ミシェルは見るからに安堵していた。
* * *
「クレスト様、それでわたくしひとりに、どのようなご用件なのかしら?」
ミシェルの強い要求で、この場にはミシェルとロズリーヌだけだ。
もちろん、密室で男女ふたりきりは問題だ。離れてはいるが、室内側の扉横にはレイモンが控えているし、扉も細く開いている。
すぐ外側にジレットもいる。
ロズリーヌは、やはりこれも何かのイベントなのではないだろうかと考えていた。自分が忘れているか知らないだけで、こういうイベントがあるのではないか。だから、ここでの選択を誤れば、暗澹たる未来が待っていて……。
対面した席に着いてから、ミシェルのようすもおかしかった。何かを言いかけてはいやいやと首を振り、口籠もる……そんなことを繰り返している。
いったい何を言わんとしているのか。
訝しみつつミシェルのようすを眺めていたロズリーヌは、ハッと気付く。
もしかして、王太子に迫られて自信を持ったヒロインが、悪役令嬢であるロズリーヌに、宣戦布告を言い放つつもりか。
それとも、世俗のしがらみなどで王太子を縛り付けるのはやめろという忠告か。“BL”の世界では、たしかよく言われている言葉があったはずだ……そう、“愛は自由”とかなんとかいうやつだ。
ロズリーヌはきりりとくちびるを噛み締める。
馬鹿にされたものだ。
王族が“しがらみ”を軽視すれば、国が乱れる原因になるのだ。男色だけに飽き足らず、王太子を暗愚に落とそうというのか。
侯爵と辺境伯はほぼ同等だ。故に、身分的にも立場的にも、ミシェルを無碍に扱うことはできない。
何より、イエール辺境伯は東方国境の護りの要。辺境騎士団を含め、一族郎党、皆、手練ればかりで国一番の武力を誇っている。下手を打てば侯爵家が潰されてしまう。
物理的に。
なるべく、いや、できる限り穏便にこの場をくぐり抜けなければならない。
そもそも、ロズリーヌの調べた限りでは、ミシェル自身だって結構な手練れなのだ。その気になればロズリーヌなんて片手でポイだろう。
物理的に。
だが、ロズリーヌはここで屈するわけにはいかないのだ。
王国の未来のために。





