4-1.殿下とヒロインちゃん
「では、何故、ロズリーヌはお前とばかり関わろうとするのだ!」
「そんなの俺にもわかりませんよ、殿下」
追求されたところで、わからないものはわからない。首を振るミシェルに、とうとう王太子も限界だ。
だが、ミシェルにだってどうしようもない。
そもそもなぜ、こんな痴話喧嘩めいたことに巻き込まれているのか。
「何故だ、ミシェル・クレスト!」
思わずテーブルを乗り越えて掴み掛かったところで、バン、と扉が開いた。
振り返って、しまったと思う。
こんな個人的なことで、他人に乱暴を働いたところを見られてしまうなんて……王太子の頭は急速に冷えていく。
しかも、そこにいたのはロズリーヌだった。
「あ……」
なんと弁解すればいいのか。
こんなところを見せては幻滅されてしまう。
「モンティリエ嬢?」
「ロズリーヌ」
だが、弁解のべの字も聞くことなく、ロズリーヌは走り去ってしまった。
「お嬢様!」
レイモンがただちに追いかける。
ジレットがそれをちらりと確認し……それから舌打ちでもしそうな表情でじろりとふたりを見やり、型通りの礼をした。
「――お嬢様に代わりまして、王太子殿下には、ご歓談をお邪魔してしまいましたことを心よりお詫び申し上げます」
最後になぜかミシェルを睨み付けると、ジレットも立ち去った。
「どうして、こんなことになっているんだ」
「殿下……まさか、モンティリエ嬢とうまくいってないんですか?」
そんな話は聞いてないんだけどな、とミシェルは小さく呟いた。
膝からくずおれた王太子に侍従が駆け寄り、抱き起こす。
「ミシェル・クレスト。お前には関係ないことだ。手荒な真似をしてしまったことは、謝罪する」
立ち上がった王太子は、それだけを告げてさっさと出て行ってしまった。
ここまでくれば、いかに鈍いミシェルにもわかる。
もしかしてこれはあれか。自分が、王太子とロズリーヌの誤解の、引いては不仲の原因になっているということなのか。
ひとり取り残されたミシェルは、ようやくそこに思い至って頭を抱えた。
王太子とロズリーヌは順調なのだと思っていたし、自分のことばかり精いっぱいだったせいもあって、そんなこと考えもしなかった。
だが、そこで何故、王太子だけならずロズリーヌにまで誤解を……いや、誤解? 何の誤解だ?
ともかく、誤解があるなら解かなければ。
ミシェルは小さく嘆息する。
あまり深く考えず、ロズリーヌとの接触を受け入れていたのは自分だ。
何しろ、そのほうが都合が良かったのだ。ジレットに近づくという目的に。
――中庭で顔を合わせて、落ち着いて凛とした姿がとても好みだと思ったのが最初だった。
さすがに、他家の令嬢の侍女とあっては直接言葉を交わせる機会はない。
だが、主人に忠実に職務をこなす姿には好感を持った。侍女らしく無表情さを保っているが、ときおりこぼれる感情の欠片が、かわいいと感じた。
何より、彼女の淹れるお茶がとても美味しくて……ロズリーヌについて行けば、必ず、ジレット手ずから淹れたお茶にありつけるのだ。
そういう抗い難い誘惑もあった。
だが、誤解されてまでこんな中途半端を続けてはいけない。
ロズリーヌには何故かあまり好かれていないと知っているが、それでもやはり、筋は通すべきだろう。主人の意向も問わずに自分を受け入れてくれなんて欲求を、ジレットが聞くわけなどない。





