3-2.真実の愛とは?
本当に、“真実の愛”とは何のことなのか。
呆然と尋ねる王太子に、ディオンは「さあ」と首を捻る。
「殿下に心当たりがないものを、私が存じ上げるはずないと考えますが」
「ロズリーヌは、いったい何の話をしていたのだ?」
「それもよくはわかりませんが……けれど、ロズリーヌ様は殿下に誰か思い人がいるとお考えのようでしたね」
「いったい、どこからそんなものが出てきたのだ」
「少なくとも、私は耳にしておりません」
もちろん、学園で他の令嬢と言葉を交わしたりすることはある。夜会で婦人方のダンスの相手をすることだってある。
だが、どれもこれも節度はしっかりと守っているはずだし、誤解を招くような振る舞いをしたことだってない……はずだ。
「ディオン、私には何か隙があったのだろうか」
「わかりません。調べてみましょう」
自分の知らないところで、噂が立つような何かがあったということか。
けれど、ディオンも不可解だとしきりに首を傾げているのだ。先んじて気付いたロズリーヌが、噂が広がらないようにと抑えている可能性はある。
先程言っていたではないか。ロズリーヌの胸にのみ留めてあるのだと。
「――まさか、あのミシェルが何かを吹き込んでいるという可能性は?」
「無いとは言い切れませんね」
気になるのは、やはりミシェルだった。
ロズリーヌが彼に纏わりついているのは気のせいで、やはり彼がロズリーヌに纏わりつき、悪影響を与えているのだろうか。
「お嬢様、あんなことをおっしゃってよかったんですか?」
ミシェルの先導で廊下を歩きながら、レイモンが小声で耳打ちした。
あれはまるで、ロズリーヌが形だけの妃でも構わないと宣言しているようだ、とレイモンは眉を寄せる。
「レイモン」
だが、今ここにはミシェルがいる。
迂闊なことを口に出すなと、ジレットが咎めた。
「そういえば、モンティリエ嬢。殿下とのお話はよかったのですか?」
足を緩めたミシェルに尋ねられて、ロズリーヌはどきりとした。
扉の前にいたのは、王太子付きの近衛だ。あの部屋に王太子がいたと考えるのは、当然のことだった。
教師の呼び出しを伝えに来たというのは本当のことだったし、ミシェルがあわよくばと考えた……などと思うのは、穿ち過ぎか。
いや、穿ち過ぎでも、用心はするべきだ。
「ええ、ちょうど終わったところでしたの。問題はありませんわ」
「もしかして邪魔をしてしまったのではと、今になって考えてしまいまして」
「まあ、そんなことはありません。お気になさらず」
それならよかったと微笑むミシェルに笑い返しながら、白々しい、と思う。
自分に纏わり付いて王太子との距離を縮めさせないロズリーヌのことを、疎ましいと思っているくせに。
教員室に着いたところで、「それではクレスト様、ありがとうございました」とロズリーヌは一礼し、さっさと入ってしまう。
ジレットとレイモンはその前で待機だ。
だが、すぐにいなくなると思ったミシェルがなかなか立ち去らない。ジレットはいったい何だと、少々訝しむような目でミシェルを見上げる。
「クレスト様?」
「いや、俺もこの後先生に質問があるので、このまま待たせてもらおうかと」
どこか取り繕うような言葉に、ジレットはますます胡乱な目付きになった。
ミシェルはぱちぱちと数度まばたきをして、ぐるりと視線を巡らせて……それから、しばし考える。
「あ……その、ジレット嬢とレイモン殿は、きょうだいなのですか?」
「はい。レイモンは私の兄でございます」
それがどうかしたのかと首を傾げるジレットに、ミシェルは「そうか」と何故かほっとしたように息を吐いた。
「では、ご兄妹でモンティリエ嬢に仕えているんですね」
「ええ。私の母はお嬢様の乳母ですし、そのご縁でこうして取り立てていただいているのです」
「モンティリエ嬢は、よい主人なのですね」
「当然です。お嬢様は王太子殿下のご婚約者なのですよ。将来は、国中の貴婦人の手本にふさわしくあれと、努力を欠かさない立派なお方でもあります」
「ジレット」
だからお前の出る幕などないのだと言外に滲ませるジレットを、レイモンが軽くたしなめた。
「失礼しました。おしゃべりが過ぎてしまったようです」
「いえ、あなたも、そういうモンティリエ嬢にふさわしくあれと努力している方なのだなと思いました」
ミシェルが、楽しそうにふわりと笑った。ロズリーヌがいつも言うように、男のくせにきれいな顔で……ジレットはそれが気に入らない。
いや、顔なんてどうでもいい。
ジレットの大切なロズリーヌお嬢様を悩ませていることが、何より許せない。





