人外転生に対する考察と、書き方のいろは
※本エッセイは個人の視点による解析をもとに書かれたエッセイであるため、納得いただけなくても責任は取れませんことをご注意ください。
人外転生とは読んで字の如く、人間以外のものに生まれ変わってしまう物語を指す。
好きな人はとても好きなジャンルであり、その意外性やストーリーの多様性によって飽きにくいと言う性質は、どうにも筆者を惹きつけてやまないものである。
が、もちろん全ての人外転生ものが面白いわけではない。もちろん書いている方も好きでつまらなくしているわけもないと思うので、なぜ面白くないものができてしまうのか、どうすれば面白くなるのかを、一度まとめてみようかと筆を取った次第だ。
なお、以下には最初に考察を書き、次にタブーを書き、最後に人化やナビゲーションの是非について書きたいと思う。
①人外転生の意外性は『人間ではないこと』に依存する。
まず人外であることとはどう言うことなのかを考えてみる。
一つに肉体の違いから来る欲求の違い。二つに同様の理由から五感や性質の違い。三つにこれらの違いからくる精神への影響。
これによって物語の主人公は人間とは別の行動理由をゲットし、それに従って新しい世界を生きるところに意外性が発生するのだろう。
誰も経験したことのないことだからこそ、存在する全ての事象が意外なものなのである。
ちなみに上記のことは生物学的に否定することはできない。
人間とは、もっと言えば生物とは脳内物質や肉体性能によって如何様にも変貌するモノなのである。精神論云々と唱えたところで薬物でコロッと人間性まで容易に変化しうることは、紛れもなく現実であるのだ。
魂や根性で抵抗できるようなヤワな構造をしてはいないのである。いや、逆の意味ではヤワなのであるが。
例え話をすると、甘いものを食べるのが生きがいの女性が猫に転生してしまった場合、猫の味覚は甘味を全くと言っていいほど感じないので、その女性はその瞬間に生きがいを失ってしまうので、どうしても変わってしまうことを余儀なくされるのだ。
といっても転生先が異世界であるのなら現実の生き物に縛られる必要はないわけで、甘味を感じる猫がいてもいいだろう。
しかし人外的特徴を消すということは、それだけ意外性を削るということでもあることを留意しておいていただきたい。
②ストーリーの面白さは主人公が何を目的とし、何をなしていくのかという部分が大事だ。
ぶっちゃけてしまえばこれは全てのストーリー構築に言えることなので、今更言うものではないのかもしれない。
しかしあえて言及するのは、人外転生においてこの要素は殊の外大切だからだ。
人外になると言うことは、詰まるところ精神以外、場合によっては記憶も含めた全てがリセットされると言うことだ。
人間社会という慣れ親しんだ土壌から放り出され、別の法則に従って生きていかなければならない。それが別の生き物になるということであり、だからこそ新しい人外生における主人公の目的は、強制的にストーリー構築のメインテーマになってしまうものなのである。
例えるのなら、人間と会話もできず、生殖活動もできないのに、好みの女の子のために人生を費やす男性主人公がいるとするのなら、その行動にはなんらかの目的が存在していなければおかしいと言うことだ。
そしてその目的や行動理由に納得がいってこそ読者は共感し、ままならない人外生に振り回される主人公を鑑賞して楽しむのである。
③主人公のハッピーエンドは人間(読者)から見れば条件付き。
生物には固有の寿命、可能な交雑の範囲が存在する。これは厳然たる事実である。
あらゆる生物は老成することによって運動機能や生殖機能が衰え、筋力が落ち、異性への興味をなくし、活動的でなくなって、やがて穏やかな余生を過ごすことになる。
また、経験を積むことによって精神が老成し、外部からの刺激に対して反応が少なくなっていくこともある。
しかし、そうなるまでの時間は生物の種類や個体によって大きく異なるのだ。そうなればパートナーは肉体的に衰え、自分に興味をなくしていく様を実感しながら生きねばならない。
異種族間での恋愛や、生きる時間を共にするということは、それだけハードルが高いことなのである。
ならば同じ種族の恋愛相手を見つければいいわけだが、そのお相手は考えるまでもなく人外である。
それを幸せと感じるということは、つまるところ人間だった過去を捨て去るという代償を伴うということだ。
何をどう選択しようが、元が人間である以上は何かを捨てなければならない。
だがしかし、その苦悩をこそ愛でるのが読者という生き物である以上は、やはり避けられないこの展開はストーリーを盛り上げる一要因でしかないのだ。愉悦である。
ただし例外として、神などの概念的な存在になればこの問題は解決することができるだろうということは、ここに記しておく。
④タブー
あらかじめ言っておくと、ここで書くタブーとは上記の要素を台無しにすることが原因で設定したものであることを頭に入れておいていただきたい。
・容易に人化してしまう。
・人語を話せる。
・人間と同じ感覚でストーリーが進行する。
・主人公の目的が定まらないまま、適当な理由である程度の話数を無双し続ける。事件、政治、戦争など舞台は問わない。
・主人公に苦悩するほどの頭がない。
とりあえずこんなところだろうか。
これらの問題の要点は、つまるところ『人外である意味がない』という部分に集約されるだろう。
人ではないのに人と同じようにストーリーが展開するのなら、そいつは御都合主義の舞台で踊る滑稽なハーレム野郎と何も変わらないのである。
⑤人化の是非について
上記のタブーで述べたとおり筆者は人化に対してそこそこ否定的である。
むしろ人間ではないからこその行き違いやトラブルが見たいのに、なぜに主人公が人間の姿になることを歓迎しなければならないのか、と主張したいくらいである。というかする。
であるからして、主人公をどうしても人化させたいというのならそれなりに納得のいく設定と、その展開を実行するにあたっての苦難と感動のストーリーを要求するし、その後に人間社会を生活基盤にしてしまうような安易さはノーセンキューと叫ぶしかない。
第一、美女と野獣だって恋愛関係を築けたのだから、ラノベのキャラにはそれを不可能だとする理屈はないだろう。
とはいえ人化需要というものが存在しないとするのも、また傲慢な話である。
それに上記のとおり、いくつかの条件が整っているのなら人化は決して受け入れられないものでもないのだ。
物語の最終盤であったり、人外としてのキャラクターを基盤に据えるのなら、ストーリーを面白く維持することは不可能ではないだろう。
⑥ナビゲーションの是非について
人外に限らず転生ものでスキルシステムを採用していない小説は少ない。これについての是非はここでは語らないが、システムの中で主人公をナビゲートしてくれる小説をちょくちょく見かける。
これは所謂鑑定スキル的なものによる説明をより分かりやすくし、なおかつぼっち状態である初期状態の主人公の会話対象として用意されているものなのであろうことは想像に難くない。
ここに実はこの神の声が神様のもので誘導されていた、などと伏線が張られていたりするが、それはそれで面白い要素なので『有り』だと筆者は考える。
しかしそもそもナビゲーションというものに関して、筆者は否定的である。
なぜならば、主人公とメタ的に会話できてしまう存在というのは、せっかく人間を捨て去った主人公に『人間』を留めるものであるからだ。
主人公の生存難易度を劇的に引き下げ、人外転生としての特徴をも削ってしまうようなこの存在は、端的に言って小説の面白さを損なってしまう存在でしかない。
例えるなら、死にゲーで横から口煩くアドバイスしてくる友人のような存在である。初見殺しやギミック、落ちているアイテムなどを全部ネタバレされて、一体何が面白いと言えるのだろうか。
伏線や世界観に必要でないのなら、まず採用を見送った方がいい設定だろう。
ただしコメディタッチな小説なら使いこなせる可能性もあるので、挑戦して見てもいいかもしれない。
⑦最後に
考察だのタブーだのいろいろと書いたが、実のところ人外転生は書くのが非常に楽な部類の小説である。
よく分からん場所によく分からん主人公を適当に放り出せば後は勝手に苦労してくれるので、話を盛り上げやすいのだ。
必要なのは生物に対する雑学と、ストーリーを程よく盛り上げるリズム感だけ。極端な話、三秒でストーリーを構築しても面白くなるのが人外転生ものというジャンルであろう。
まぁそれを言ったら『主人公が森の中で剣を引き抜いて冒険して魔王を倒す』なんて適当な話でも、話の構築がしっかりしていれば普通に面白くなるのではあるが。……いや、やっぱ難しいかな。
閑話休題。
兎にも角にも、面白い人外転生に必要不可欠なのは、人外であることに対するこだわりであると筆者は考える。
そのこだわりがどれだけストーリー内に反映されているかによって、面白さは増減しているのだと結論づけて、このエッセイを締め括りたい。
そういえばキーワードにファンタジーとSF両方入れちゃったけど、SFで書いてる作者さんいるのかな。あるなら読みたいなあ。