9.OK! リッチー! ※
その次の日、十二月十四日。
ジャックは漁船FREEDOM号の上に立っていた。
リッチーはジャックを雇った。
日給一万ニーゼという仕事は大人でも容易くありつけない。
それは数日間の船内清掃。
リッチーはこの町に滞在している間に、ジャックにできる限りのことをしたかった。
それが〝仕事を与える〟ということだった。
沖からの冷たい風が吹きつける。
悶えるように船が揺れる。
そんな中でもジャックは活き活きとモップをかける。
椅子に座って新聞を読んでいるリッチーをちらりと見て、ジャックは訊ねた。
「……本当に掃除だけでいいんですか?」
リッチーは小さく頷く。
「お前は几帳面な男だと見た。仕事ができると。掃除は頭を使う立派な仕事だ。全ての基本だな」
「……は、はい!」
「ジャック。このFREEDOM号は喜んでる。お前に磨かれて、とても嬉しそうだ」
「ありがとうございます!」
実に爽やかなジャックの笑顔。
リッチーはサムズアップで応えた。
「リッチーさん、あとひとつ、気になることが」
「ん?」
「今日は、ブリウスはどこにいるんですか?」
「ルカと一緒だからな。宿をとって泊まってる。……そうか、すっかり友達になったんだな」
「は、はは」とジャックは照れて笑った。
リッチーは立ち上がりウンと背伸びをした。
「ブリウスはルカが連れ回してるせいでここ一年学校に通ってない。だから一人でいることが多い。ルカにはなんとかしろと言ってるんだ……あいつも少しは考えてると思うんだが」
そう言ってリッチーは近づき、ジャックの肩に手を置いた。
「短い間だが、仲良くしてやってくれ。ブリウスと、俺とメンバーと」
「はい! も、もちろん喜んで」
ジャックはまるで新兵のように直立不動に答える。
「ジャック、肩に力が入り過ぎてる。それじゃ長くもたんぞ。気を楽にもて」
「……わかりました、リッチーさん」
「んー。いや、『OK!』でいいんだ。それで俺のことは『リッチー』でいい。俺はお前をジャックと呼ぶ。対等だ。俺たちは友達だ。いいな?」
「は、はい! わか……じゃなくて」
ジャックは少し強張った顔で緊張を隠せずにいたが、目はキラキラと輝いていた。
「OK! リッチー!」
「そう。それでいい」と、リッチーはにこりと笑った。そして、
「ジャック。俺もひとつ、気になることが」
「え? ええ……」
「たとえば……せめてクリスマスまでに、パパは戻らないのか?」
昨夜、リッチーが肩を寄せてもジャックは多くを語らなかった。
ちょっと長いお留守番ですと答えただけ。
涙は見せても笑顔で振り払うジャックが健気だった。
――その間だけでもせめて俺たちが兄妹二人の寂しさを埋められたら。リッチーはそう思っていた。
◾️ジャックとクリシア