8.フェデリッチ通り
海上保安庁の監視カメラの設置場所を地図にマークするホウリン。
「そして配線はヴァンサントスの地下を通り管区本部へ……こう伸びている」と言ってリッチーに渡した。
「よし。ジミーもありがとな」とリッチーは彼らの肩をさすり、立ち上がった。
見上げるジミーが首を傾げる。
「え? どこへ行くんだいリッチー」
〝鍵〟を見せて答える。
「ちょっと届けてくる」
FREEDOM号にリッチーとルカがいない間に船に落ちていた鍵はジャックのもので間違いないと、リッチーは再びあのレストランを訪ねた。
準備中の店の扉を叩き、店長を呼んだ。
案の定ジャックはやめさせられていた。
ともかく彼の住所をメモにとり、今に至る。
午後六時。リッチーは車を停め、室内灯をつけた。地図を広げ場所を確かめる。
そこは……イーストリート十番街区フェデリッチ通り五五四六チェンバースアパート。
車を降り、二階を見上げた。
――ジャックは妹と二人だけで暮らしているとブリウスから聞いたが……。
「……二〇二か。灯りがついてる部屋だといいが……」
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二〇二号室。夕飯の支度を終えた時、その音は鳴った。
ビーーッ、ビ、ビーーと接触の悪いチャイムの音にジャックとクリシアは振り向いた。
「まさか、パパ?」
誰かが訪ねてくる度にそう思うのは当たり前だった。
二人は玄関へ行き、ドアの覗き穴から向こう側を。
その薄明かりにぼんやりと浮かぶ人影は、父親ジョージではなかった。
歪んで見えるが父よりも少し背が低く丸い頭のすらりとしたシルエット。
ジャックは応えた。
「……どちら様ですか?」
「ジャックか? 俺だ。リッチーだ。この前レストランで」
「え! リッチーさん?」
「覚えているかい? 中にはいれてよかったな。……船に来たんだって? 鍵を落としていったろう」
ジャックはドアを開けた。
気持ちがたかぶって声を上げた。もうこみ上げている。
「リッチーさん!」
「よぉ! ジャック!」
両手を広げ立つリッチー。
部屋の明かりに照らされ微笑むその姿はまるで聖者だった。ジャックにはそう見えた。
「妹ちゃんがスペアを持っていたのかな?」と、潤んだ目のジャックをリッチーは優しく抱きしめた。
ありがとうと何度も言い、肩を震わすジャックの痩せた背中をさする。
そしてその後ろでじっと見つめるクリシアに、リッチーはそっと鍵を手渡した。