67.〝クロコダイル〟デューク ※
ギングス・ファームの会議室。
〝ジャック・パインドと金〟を確かめるため、ウォルチタウアーは席を立ち、場を離れた。
リガル・ナピスはサンダースたちに唐突に問う。
「次なる客人は未だ、来ないのかね?」
「……客人?」
「……ふっ。まあいい。では、先ほどの続きだドン・ジャグア。新兵器の威力、今からお見せしよう」
そう言うとリガル・ナピスはゆらりと立ち上がった。
どよめく場内。
サングラスを外し、素顔を露わにするナピス。
突然の行動に戦慄が走る。
皆が注視する中、リガル・ナピスの顔、こめかみや顎の表皮がゴワゴワと波打った。
つり上がった両眼の瞳孔は赤く輝き、ドン・ジャグアを刺すように見つめた。
変貌してゆくナピスを指差し、サンダースは声を張り上げた。
「こいつは? 何者だ貴様はっ!!」
さらに顔が変わってゆく。左頬の痣は消え、下顎から盛り上がる。
ぐねぐねと容姿を変えるリガル・ナピスは黄土色の強靭な胸元を曝け出した。
次の瞬間ナピスの右手が蛇のように長く伸び、ジャグアの首を掴んだ。
そのままジャグアは引き寄せられ、テーブルの上でのたうち回る間もなく口を大きく開けたリガル・ナピスに噛み殺された。
立ち上がったビフが指示を出し、護衛たちが銃を抜いた。
「撃てーー! この化け物を殺せーーっ!」
一斉砲火!
だが弾丸は硬い表皮に跳ね返り、効かない。機関銃もショットガンも効かない。
口から胸元にジャグアの血を垂らしたその化け物は薄ら笑いでビクともせずその亡骸をサンダースの方へ放り投げた。
「ヒャーーハッハ! 次はキサマだストーン・サンダース!」
「お、お前は……」
正体を現した男は名のった。
「……俺はデューク。爬虫人類の〝クロコダイル〟デュークだ。さらに俺はナピスの血清を受け入れ、力を増強した。そう、見よ。俺こそが新たな兵器だ」
怯まずまた撃ち込むビフたち。
デュークは平然と正面を晒した。
「まだわからんかビフ・キューズたちよ。俺は人間じゃない。姿形を変える能力を待ち、銃も効かないレプタイルズが悪魔と融合し、さらに強さを極めたのだ。邪魔だ、どけ。そのストーン・サンダースを食わせてみろ」
その時! 烈しく扉が開かれ、構わず発砲しながらベルザが突入してきた。
****
農舎の裏口では、ウォルチタウアーと(ヴォーンに変装したつもりの)トミー・フェラーリが同時に振り返った。
防音壁越しでも会議室から音が漏れている。トミーはビクついた。
「お……おい、何かあったんじゃねえか?」
ウォルチタウアーが説明する。
「トミー。中にいるのは実はリガル・ナピス様じゃない。奴は総帥の〝影〟。組織の守護神と崇められるレプタイルズのデュークだ。ナピスの最強戦士。この商談は最初から怪しかった。サンダースたちは総帥を殺すつもりだったさ。こちら側としても三大マフィアの首領を一気に片付ける絶好の機会だった。デュークは百人……いや千人の兵に匹敵する。そう、そしてソサエティのベルザも現れるはずだと」すると、
「ベルザはもう行ったぜ」
「え?」
ウォルチタウアーとトミーが振り向くと巨漢ルカが大きく手を広げ、立ちはだかっていた。
「て、てめえ!」
瞬間ウォルチタウアーとトミーは頭を打ちつけ合い、脳震盪を起こして倒れた。
トミーのポケットから車の鍵がじゃらりと落ちる。
ルカは二人をトイレに放り込み、ジャックに合図した。
ジャックはトミーに中指を立て「お前の始末は後回しだクソ野郎」と鍵を拾い、ポケットに入れた。
ジャケットを脱ぎ捨てショットガンを構えてルカは言う。
「聞いたかジャック。どうやらリガル・ナピスは偽者らしい。レプタイルズ族の化け物のようだ」
「レプタイルズ……」
「ああ。そしてベルザの声が俺に届いた。《逃げろ》と。だが俺は昔から言いつけを守らないガキでな。そう言われるほど向かって行きたくなる」
「……俺もそう。わかるよ」
微笑むルカにジャックは頷き、突き進む彼の後に続いた。
奥から銃声が響いている。
一瞬躊躇うジャックとルカの前にマフィアの者たちが二人三人と走ってきた。
血相を変えた彼らはそのまま外へ走り去った。
次々と逃げ惑うその後を血だるまの男が床を這って出て来た。
「……ぅうう、ナ、ナピスは……悪魔だ」
男はそう言い、ルカが抱き起こすとそこで息絶えた。
エスタド・ファミリー、ドン・クワトロの最期……。




