66.渦巻く殺気
ギングス・ファーム。
闇の会議室では三大ファミリーのドンと〝死の商人〟リガル・ナピスが顔を突き合わせている。
「真意……とな。私は商売人だ。利益の追求以外に何があるかね?」
リガル・ナピスの答え。ストーン・サンダースはこめかみに指を当て詰問する。
「目的だ。貴方は政府に取り入ってる。共明党のどの議員を抱き込んだ?」
「……ほう。私のやり方に何か不服でも?」
ナピスは身を反らし、隣りのウォルチタウアーと顔を見合わせ首を横に振る。
「そう。貴方は挨拶も無しに我々の領地に土足で入り込んだ」
「フッ、ドン・サンダース。皆様も所詮ぶら下がって生きてらっしゃる。法を欺いてな。私どもと何が違う? 同じドングリだろうが」
サンダースの顧問ビフ・キューズの目が吊り上がった。
「何だと貴様」
サンダースがビフを制した。そしてクワトロとジャグアの表情を窺う。彼らはどう思ってるか。
リガル・ナピスは言った。
「……どうやら私が気に入らんようですな。残念だ。折角皆さんと新たな暗黒時代を築けると思ったのに。私は武器を売りに来たのにあなた方は私に喧嘩を売ろうとする」
ビフは指差し、歯を剥き出して言う。
「そっちが仕掛けたんだろうが! 我々は調べたんだ。あんたらはスプンフルの残党を使い我々の仲間を殺させた。たとえばトミー・フェラーリらを雇い」サンダースはビフの手を掴んだ。
「知らんな。何の話だ」とナピスは首を横に振る。
ドン・ジャグアが手を上げ口を挟んだ。
「まあ待て。ミスター・ナピス。新しい武器の話だ。本題はそれだろう? どんな武器だね。あんたらが売ろうとしている新兵器がどういうものなのか、先ずは見せていただきたい」
舌打ちするビフ。同じくナピスの態度に苛立ち爪を噛むドン・クワトロも訊く。
「ミスター・ナピス。そもそも手ぶらのようだが。どこかにそれを隠し持ってるのか?」
ちょうどそこへ門番から護衛を介し、ビフ・キューズに伝言が入った。
ビフはそれを伝えた。
「ミスター・ナピスとウォルチタウアー。ヴァル・ヴォーンと名のる男がお届け物だと。〝ジャック・パインドと金〟だそうだ」
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反ナピスの地下組織ソサエティの指導者ベルザ。
窃盗団ソウルズの運転手ルカ・スティーロ。
彼らがいよいよギングス・ファームに到着する。
黒いスーツの胸に黄色い薔薇をつけた出立ちの二人はサンダース傘下の者として門を難なく通過し、農舎脇の駐車場へ。
ちょうどそこを警備の男が長髪に眼鏡の小男(変装しているトミー・フェラーリ)を連れ、農舎の中に入って行った。
何台もの車の隅の方、緑のボルボアマゾンの横にルカは車を駐めた。
ベルザは農舎の方を見つめながら言った。
「ここまでありがとうルカ君。君は帰るんだ」
「ええ?」
「殺気が渦巻いている。これは罠だろう。サンダースはナピスを誘き出し、そのナピスは私が現れるのを待っている」
「それはおおよそ想定内だ。わかってて俺もここへ来たんだ」
ベルザはルカの目を見る。そこには揺るがぬ覚悟が宿っていた。
「……そうか。だが、これは私がしなければならないことだ。君には、私の逃げ道を作ってほしい。だから今はここで待機していてくれ。いつでも動けるように」
「ああ。もちろんだ」
「よし。何かあったら連絡する」
「手段は?」
ベルザはルカの厚い胸板を指し、微笑んだ。
「君のここに呼びかける」
そう言って静かに車を降り、農舎へ向かった。
潮の香りを漂わせ……ベルザとは真に何者なのか……ルカは首を傾げながら、それにしても先ほどから変な物音がする。隣りのボルボから。
ルカは車を降り、その中を覗き込んだ。
すると後部座席には縄で全身縛られ、横たわる男の姿が――ルカは目を疑った。その姿は見紛うことなき、ジャックだった。
「お、お前どうしてジャック! こんな目に」
粘着テープで口を塞がれたジャックはモゴモゴと助けを求めた。
ルカはドアの窓ガラスを叩き割り、携えたナイフでジャックを解放した。
テープを剥がされたジャックは痛気持ち良く叫んだ。
「……ぃって! あ、ああああ、ルカさん! ありがとう、たぁーすかったああっ!」
顔も腕も痣だらけのジャックを、ルカはガシリと抱きしめた。
「ジャック、いったいどういうことなんだ? ダグラスさんは?」
「い、痛いよルカさん。いろいろあって……あれから」
ジャックはこれまでの経緯を手短かに説明した。そして決意の眼差しで立ち上がる。
「……ダグラスさんを捜しに行く前に……俺はリガル・ナピスを殺る!」




