64.への字口
ナピスの使いパシりトミー・フェラーリはセブンイレブンに車を駐め、小銭を手に電話をかけに行く。
店の入口にある公衆電話から、頼りのアーロン・ウォルチタウアーに。
呼ぶが刑務所長室にはいない……ならば自動車電話の方に。
「……アーロン、俺だ、トミーだ」
ウォルチタウアーの声は裏返った。
《おいキサマ! 今どこにいるトミー!》
「ちょ、ちょっと待てよ何だよアーロン、どうしたんだ?」
《どうしたもこうしたもあるか! 俺の金を持ち逃げしやがって! 今どこで何してる!》
「えーー? 何だってんだぁ、俺ぁ」
《ここ、エリアNPCに来ただろうが! 俺の報酬の二億! ……スーツケースに詰め込まれた……このコソドロがあ!》
「ちょっ」と、そこで電話が切れた。
もう小銭がない。急いで店内のレジへ行き、懐の札束から一万ニーゼを抜き取った。
「おい、両替だババア」
婆さんの店員はその札をまじまじと見つめ、首を傾げた。
「兄さんこりゃあニセ札だべ。ほれ、お札のお顔をよく見ろやぁ、エルドランド啓蒙思想家ハーヴェスト・サンの口がへの字に歪んどるべ〜」
「はあ? 何を言うか!」
見ると確かにへの字だ。あらためて札束を懐から出す。
それはジャックが払ったヘロインの金。
二枚目もへの字。三枚目もへの字。四枚目も……ぜーんぶへの字だ。
婆さん店員が牛乳瓶の底眼鏡をずり上げ、顔をいっそうしかめて呟く。
「あーんた。いかにも怪しいべ」
「クッソ!」
トミーはたったと車に戻り、ジャックに札束を叩きつけた。
「こーのガキぁああ! ナメた真似しやがって、全部ニセ札じゃねえかあ!」
そして殴る蹴る殴る蹴る踏み散らかす。
それでもジャックは血反吐を垂らしながら薄ら笑いで返した。
「ヘッ! 殺るなら殺れよ! 俺は覚悟ができてんだ。ああ怖かねえ。今舌噛んで死んでもいい。どうせブライアンも死んださ。ピンブルもミスして処刑されたかもな。そしてお前も結局ナピスに追われて消されんだ。ハッ!」
「おー、気でも狂れたかジャック」
「俺にはソウルズがいる、ソサエティもいる、サンダース・ファミリーも知ってる、追い回すぞお前を! ざまぁーみろコノクソヤロー!」
トミーは、こいつマジ何者だと顔をしかめながら、
「もう黙れジャック……っと、ちょっと待てよ……そ、そうか! 一つわかったぜ」
そう顎をさすり急に得意げに笑うトミー。
「ソウルズかぁ……だよな、てめえは盗っ人だよな! さては金も盗んだな? アーロンの金だ、トランクのスーツケースだよ。てめえが盗んだのか!」
「知らねえよ(アッカンベー!)。あの人が言ってたろ? 『俺の』って」
「お前……まさかダグラスをそそのかしたのか」
どうやらトミーはどこまでもダグラスを信用しているらしい。
そこはダグラスの人の心を掴む卓越した話術、人柄によるものか。
そこで遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。
トミーはセブンイレブンの店内に目を向けた。
「あっのババア、通報しやがったな! あいつも舌出しやがって、ポテチなんか食ってやがる!」
トミーは運転席に乗り急発進。一先ずそこを退却した。
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やがて大型量販店の大駐車場に紛れ、エンジンかけっぱなしの緑の車を見つけたトミー。
そしてガムテープで黙らせたジャックとスーツケースをその車に放った。
ジャックは滲む血を噛みしめながら考えていた。
――どうせならリガル・ナピスに会って一矢報いる気概で行ってやる! そう、全部わかった。奴こそが邪悪の根源だ。ブライアンの向こうで操っていたのはリガル・ナピス! ブライアンを蘇らせた、奴なんだ!
夜になり、トミーは車にあった小銭で公衆電話からウォルチタウアーを呼んだ。
これまでの事情を説明し、とにかく金は手元にあると言って安心させた。
知りたかったのはリガル・ナピスの居所だった。
ウォルチタウアーは受話器を指し突きながらトミーに言った。
《明後日午後四時。ギングス・ファームで三大ファミリーの会合がある。リガル・ナピス様はそこに行く。俺も同行する。だからそこに金を持って来い!》




