61.父の敵 ※
ダグラス・ステイヤーが運転するワゴン車にはジャックとトミー・フェラーリが乗っている。
あれから三時間後、着いた場所は無法地帯ニューモニィのトミーの寝ぐら。
睡眠薬で眠り続けるトミーを担いでダグラスは廃墟のような鉄筋のアパートに入ってゆく。
トミーを椅子に下ろし、縄で胴と手首、両足首もくくりつけた。
後に続くジャックはそれを見つめている。ダグラスが指差す。
「しかしよく寝るもんだ。生きてんのかこいつ」
そう言ってダグラスは外へ向かった。
「どこへ?」とジャックが訊ねると、
「ベルザに電話してくる。しっかり監視しててくれ。そいつには後でたっぷり吐いてもらう」と手を振り、ダグラスは出て行った。
部屋に残されたジャックとトミー・フェラーリ。
ふと、殺すなら今だと頭をもたげたが、首謀者特定のためだ落ち着けとジャックは深く息を吐いた。
汗でベタつく顔や首筋、シリコンマスクを外した後の下地クリームを洗い流したく、洗面台を探しに隣りの部屋に入ったその時、銃声が轟いた。
玄関のドアが破壊され、突然男が一人侵入してきた。
変局にジャックは動けず、ドアの隙間から恐る恐る覗いた。
その黒いレザージャケットにアッシュブロンド髪の侵入者は、椅子からひっくり返されさすがに目覚め慌てもがくトミーの鼻っ面にショットガンの銃口をあてがった。
裏返った声でトミーは叫んだ。
「な、なぁあにしやがんだああ……あ! ブライアン!……ん、ま、待て、ここは……あれ? 俺何してんだここで」
見下ろす彼は言う。
「その名は捨てたと言ったはずだ。俺はヴァル・ヴォーン。ナピスの斥候。……おいトミー。エリアNPCに行っただろう? あのワゴン車がハイウェイの監視カメラに映っていた」
その声! ――と、ジャックははっと口を押さえた。
トミーに凄む話し方、口調はあのテープに録られていた声だと、ジャックは気づいた。
しかもトミーは確かに奴を『ブライアン』と呼んだ――。
トミーの頭の中はまだ真っ白だ。
「ちょ、ちょっと待てよ、俺は……」
「ジミー・リックスに逃げられた。ソウルズだ。奴らがエリアNPCを襲撃した。警備員も医師たちも眠らされ、室長も殺された。ウィップスたちも殺された。監視映像も全て消され爆破された」
「ソウルズ……」
「お前もウォルチタウアーから聞いただろう。おそらくソサエティも絡んでる」
「ああ、そう。ヴォーンよ、捜しているあの……」
震えるトミーは鼻先に向けられた銃口に顔を背けながら訊いた。
「そのソウルズのジャック・パインドってよぉ、あれぁお前が殺したジョージって奴と関係があるのか?」
ヴォーンはニヤリと答えた。
「そう。その通り。ジョージ・パインドの息子。養子らしいがそのガキはおそらくソサエティとも繋がっている」
ジャックは確かに聞いた。
――奴だ! 間違いない、俺が追い続けた男がそこにいる! チェイン・ギャングスの写真にも映っていたあの男にもどこか似ている! 生きていたんだ――奥歯を噛みしめ、ジャックは銃把を握った。
「……それよりトミー。今はお前のことだ。ワゴン車を運転していたのはお前か? それとも」
「それはあのダグ……」と言いかけたその時、激しく洗面所のドアが開けられた。
歯を食いしばり、震えながら立つジャック。
ギロリと、ヴォーンが顔を向ける。トミーは首を傾げ目を丸くして言った。
「あ? ……れ? てめえは……あのジャック・パインドか? なんでそんなとこに!」
ジャックはポケットに押し込んでいたマスクをトミーの足元に投げつけた。
〝シリコン製のジョン・キートン・マスク〟のふやけた顔が床で上を向く。
ああ! っと大きく口を開けるトミー。
拳銃を手に、ジャックは涙目で睨みつけている。
ほう……と、ヴォーンは薄ら笑いで足を踏み出す。
ジャックは銃口を向け、声を張り上げた。
「キサマァアアアア! ブライアン・ヒル! よくも、よくも俺のパパを!」
「フッ……ジャック・パインドか」
その頬に浮かび上がった文様に目を凝らすヴォーン。
「むぅ? まるで爬虫人類のようだな」
「黙れっ! キサマをブッ殺す!!」




