6.ホウリンとジミー
白いイスラムワッチのホウリンが訊く。
「〝イシカワゴエモン〟って知ってるか?」
「……さぁ」とジミーは首を傾げる。
「昔、実在した日本人」
「ジャパニーズ……サムライ?」
「違う。……誇り高き大泥棒。俺たちの兄貴分さ」
「オォ! that’s SO COOL!」
ジミーはパチンと指を鳴らした。
二人はイーストリートの繁華街ヴァンサントスの裏通りを並んで歩いている。
赤茶けた石畳の路地には地下からの煙と夕暮れ時の賑わいが漂っている。
ホウリンは革ジャンの襟を立て、やや猫背で歩く。
「ホウリン、あんた日本人なんだな?」
「……さぁ。どうかな」と彼はサングラス越しに監視カメラの位置をチェックしながら答え、また返した。
「ところでジミー。お前とリッチーとの出会いって何なんだ? ……何故、WBAバンダム級元世界チャンプのお前がこうしてここにいるんだ?」
「……迷惑かい?」
「いや。そんなんじゃない」
「教会への銃撃事件から俺の人生は変わった。肌の色で何故こんなに苦しむのか。〝血の呪縛〟について人間を学ぼうと、リッチーに添って行こうと決めた。俺が選んだ道なんだ」
そう言ってジミーはツリーのイルミネーションを微笑ましく見つめる。
「リッチーのことは昔から知ってた。久しぶりに会ったんだ。二年前のクリスマスに。その頃俺は育ててもらった教会の孤児院を建て直してて……訪ねてきたリッチーに、再会したんだ」
「リッチーは寄付をしに?」
「ああ。そのことは後にホプキンス牧師に聞いたんだけど。俺がガキの頃からリッチーはクリスマスにやって来て俺たちにプレゼントを。他の兄弟たちも、俺たちにとってリッチーは本物のサンタクロースだった」
「本物ねえ」
「そ。シブいサンタクロース」
「……二年前か。その頃ボクシングは?」
「やめてたさ。協会から追放されたんだ」
ホウリンは顎をさすり「協会から教会へ?」
「ははっ、そう。全てを捨ててね」
「何やらかしたんだ」
「あの世界タイトル……プロモーターが俺に言ってきた。ずっとボクシングをやりたかったら今日の試合は負けるんだと」
「八百長をか?」
ジミーは頷き、戯けまじりにガナリ声を立てる。
「ああ。ふざけんなって感じさ。上の奴らは皆、どこか俺を嫌ってた。俺みたいな褐色リバ族の二連覇は許せなかったんだろ。エルドランド白人至上主義さ」
「……で、見事1ラウンドKO勝ちってなわけか」
「でも後で計量ミスだったの難癖つけてきやがって。汚い世界にもうベルトなんてどうでもよくなった。……そう、とにかく」
そう言ってジミーは笑い、セーターに浮き出た胸板を誇らしげに張った。
「本物というものを見せてやった」