56.エリアNPCへの潜入 ※
そして午前四時、エリアNPCに彼らは到着した。
二重フェンスの前でセキュリティの門番二人がワゴン車の車内を覗き込む。
「あ、ウォルチタウアーさん。おはようございます。こんな時間に珍しく。あれ? トミーさん寝てらっしゃる?」
門番の問いにコートの襟を立てた丸眼鏡の偽ウォルチタウアー(シリコンマスクでのダグラスの変装)は答えた。
幸いウォルチタウアーの骨格に近いダグラスは、偽マスクがよく馴染んだ。
「ああ、風邪らしく薬がよく効いてるようだ。かわいそうだから寝かしておくつもりだ。そっとしといてくれ」
「承知しました。……後ろ、今日は三人ですか?」
「うむ。強者ぞろいだ。そしてここだけの話……ちょっとした儲け話だが」と言って門番二人とも近寄らせ、隙をついて麻酔弾を撃ち込んだ。
駐車場に車を止め、四人は中へ。
すれ違う医師、ナース、警備員たちは偽ウォルチタウアーに会釈する。
薄明かりの廊下を歩き進んで途中、影のようにするりと空調室へ入り込むリッチー酋長とロン毛ホウリン。
そして医務室に入る偽ウォルチタウアーとジョン・キートン(ジャック)を待ち受けるのは室長のドクター・ムラキという男だった。
「これはこれはウォルチタウアーさん。いやあ驚いた。もう来られたとは……まあどうぞこちらへ」と促されるがまま二人はソファへ。
(もう来られた)という部分が引っかかるが、偽ウォルチタウアーはバッグを置き、頭を掻きながら応えた。
「ああ、いえいえ経過が気になりましてね。兵隊さんたちの」
「そうですか。……で、そちらは?」
ムラキが無表情なジョン・キートンを凝視して訊くから偽ウォルチタウアーは仕方なく紹介した。
「ああ彼キートン助手は無愛想で失礼」と言われてキートンはペコリと頭を下げる。
「……なるほどね」
ムラキはデスクへ回り隠していたスーツケースを手に取った。偽ウォルチタウアーは首を傾げる。
ムラキは先ず話を始めた。
「なかなかね。血清が適合しない。身体が丈夫なだけではダメらしく、ほとんどの者が耐えられずに発狂する。今のところ成功と言えるのは三人」
そう言ってムラキはプリントアウトされたデータを見せた。
――MS0005〝エレファント〟アーノフ――
――MS0012〝コング〟ウィップス――
――MS0023〝ウルフ〟コーチーズ――
「なんです? この〝 〟は」
偽ウォルチタウアーが質問する。
ムラキは「型のイメージですよ」と笑って答えた。
「ナピス総帥は出が海賊だ。その兵隊として骸骨の仮面を被せるのが面白い」と、デスク端の骸骨のオブジェをクリクリとさすった。
キートンはデータを見て閉口していた。
やがて偽ウォルチタウアーはちらりと自分の腕時計を見て、ひどい咳をし始める。
「ん? 風邪かね?」
「ゴッホんゴッホ……んあ〜、大したことはないのだが、すまん。移してはならんので」と口に不織布マスクをする偽ウォルチタウアーとキートン。
そうかとムラキは怪訝な顔でスーツケースをテーブルに置き、中を開けて見せた。
それはびしりと敷き詰められた札束、二億ニーゼ。
「上から預かったあなたの報酬。これまでと今後一年の分も含めて。あなたに渡すよう言われて連絡したが……こんなひ……も……はや……くぅぅ……」
催眠ガスが効いてきた。
ぐらりとうつ伏せにムラキ室長は倒れ込んだ。
それぞれに変装マスクを脱ぎポケットに仕舞い、防毒マスクに着け換えたダグラスとジャックは立ち上がった。
ダグラスは倒れたムラキを拳銃で撃ち殺した。
「こいつを殺せば実験はとりあえず食い止められる」
そう言ってスーツケースを閉め鍵を取り、震えあがるジャックに同じベレッタを渡した。
「撃ち方はセリーナに習ったな」
「は、はい……」
「ここにたどり着くまでかなり乱暴だったが、俺たちも必死なんだ。わかってくれジャック」
「……俺も、そうです」
「よし。しっかり自分の身を守るんだ」
銃を握るジャックの肩をぐっと抱きしめるダグラス。
マスク越しの強い意志の眼差し。
二人は直ちに行動を開始した。




