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FREEDOM  作者: ホーリン・ホーク
third season
56/83

56.エリアNPCへの潜入 ※

 そして午前四時、エリアNPCに彼らは到着した。

 二重フェンスの前でセキュリティの門番二人がワゴン車(ヒノ・コンマース)の車内を覗き込む。


「あ、ウォルチタウアーさん。おはようございます。こんな時間に珍しく。あれ? トミーさん寝てらっしゃる?」

 門番の問いにコートの襟を立てた丸眼鏡の偽ウォルチタウアー(シリコンマスクでのダグラスの変装)は答えた。

 幸いウォルチタウアーの骨格に近いダグラスは、偽マスクがよく馴染んだ。


「ああ、風邪らしく薬がよく効いてるようだ。かわいそうだから寝かしておくつもりだ。そっとしといてくれ」

「承知しました。……後ろ、今日は三人ですか?」

「うむ。強者ぞろいだ。そしてここだけの話……ちょっとした儲け話だが」と言って門番二人とも近寄らせ、隙をついて麻酔弾を撃ち込んだ。



 駐車場に車を止め、四人は中へ。

 すれ違う医師、ナース、警備員たちは偽ウォルチタウアーに会釈する。

 薄明かりの廊下を歩き進んで途中、影のようにするりと空調室へ入り込むリッチー酋長とロン毛ホウリン。

 そして医務室に入る偽ウォルチタウアーとジョン・キートン(ジャック)を待ち受けるのは室長のドクター・ムラキという男だった。


「これはこれはウォルチタウアーさん。いやあ驚いた。()()来られたとは……まあどうぞこちらへ」と促されるがまま二人はソファへ。

 (もう来られた)という部分が引っかかるが、偽ウォルチタウアーはバッグを置き、頭を掻きながら応えた。

「ああ、いえいえ経過が気になりましてね。兵隊さんたちの」

「そうですか。……で、そちらは?」

 ムラキが無表情なジョン・キートンを凝視して訊くから偽ウォルチタウアーは仕方なく紹介した。

「ああ彼キートン助手は無愛想で失礼」と言われてキートンはペコリと頭を下げる。

「……なるほどね」


 ムラキはデスクへ回り隠していたスーツケースを手に取った。偽ウォルチタウアーは首を傾げる。

 ムラキは先ず話を始めた。


「なかなかね。血清が適合しない。身体が丈夫なだけではダメらしく、ほとんどの者が耐えられずに発狂する。今のところ成功と言えるのは三人」

 そう言ってムラキはプリントアウトされたデータを見せた。



 ――MS(マッド・ソルジャー)0005〝エレファント〟アーノフ――

 ――MS0012〝コング〟ウィップス――

 ――MS0023〝ウルフ〟コーチーズ――



「なんです? この〝 〟は」

 偽ウォルチタウアーが質問する。

 ムラキは「(タイプ)のイメージですよ」と笑って答えた。

「ナピス総帥は出が海賊だ。その兵隊として骸骨(スカル)の仮面を被せるのが面白い」と、デスク端の骸骨のオブジェをクリクリとさすった。

 キートンはデータを見て閉口していた。



 やがて偽ウォルチタウアーはちらりと自分の腕時計を見て、ひどい咳をし始める。

「ん? 風邪かね?」

「ゴッホんゴッホ……んあ〜、大したことはないのだが、すまん。移してはならんので」と口に不織布マスクをする偽ウォルチタウアーとキートン。

 そうかとムラキは怪訝な顔でスーツケースをテーブルに置き、中を開けて見せた。

 それはびしりと敷き詰められた札束、二億ニーゼ。

「上から預かったあなたの報酬。これまでと今後一年の分も含めて。あなたに渡すよう言われて連絡したが……こんなひ……も……はや……くぅぅ……」


 催眠ガスが効いてきた。

 ぐらりとうつ伏せにムラキ室長は倒れ込んだ。

 それぞれに変装マスクを脱ぎポケットに仕舞い、防毒マスクに着け換えたダグラスとジャックは立ち上がった。

 ダグラスは倒れたムラキを拳銃で撃ち殺した。


「こいつを殺せば実験はとりあえず食い止められる」

 そう言ってスーツケースを閉め鍵を取り、震えあがるジャックに同じベレッタを渡した。

「撃ち方はセリーナに習ったな」

「は、はい……」

「ここにたどり着くまでかなり乱暴だったが、俺たちも必死なんだ。わかってくれジャック」

「……俺も、そうです」

「よし。しっかり自分の身を守るんだ」

 銃を握るジャックの肩をぐっと抱きしめるダグラス。

 マスク越しの強い意志の眼差し。

 二人は直ちに行動を開始した。



挿絵(By みてみん)

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