54.トミー・フェラーリ
十一月半ば。南部の無法地帯ニューモニィ。
深夜一時、雑居ビルが立ち並ぶ町外れの公園。
深い霧の中、ブランコに一人の小男が座っている。
コートの襟を立て、背中を丸め煙草を吹かしている。
その男の名はトミー・フェラーリ。
遅えなダグラスのやつとボヤきながら彼は懐をまさぐった。
暇だからウォルチタウアーから送られた写真を見ようと取り出す。
アーロン・ウォルチタウアーは十代の頃からこの町で育った馴染みで、今はナピスの幹部になり差をつけられたがトミーは別段腹を立てない。
腐れ縁とは良いもので利用すればいいと腹に据え、小狡く生きるトミーだった。
写真を見つめる。
街灯の黄色い薄明かりに照らされる四人の顔。
それはリッチー・ヘイワース、ルカ・スティーロ、ホウリンのソウルズ三人とジャック・パインドだ。
「ジャック……パインドか……」
ふと、霧の中を歩いてくる誰か。
トミーは耳を澄まし目を凝らした。
相棒のベン・ダグラスではなさそうだ。足音でわかる。
拳銃を握る。近づいてくる不審者は容赦なく撃ち殺す……トミーはそういう男だ。
「グッドフェラ!」とその男が言った。
なんだ、買い手かよとトミーの手が留まった。
『グッドフェラ』の掛け声はヘロインの売買をする時のウォッチワード。
現れた腫れぼったい不細工な中年男はトミーの前に立ち、ペコリと頭を下げた。
トミーが訊く。「誰のツテだ?」
「ダグラスさんや」と不細工は答えた。
「名前は?」
「ジョン・キートンいいますぅ」
ガバッとトミーは立ち、ジョンのボディチェックを始めた。
「てめえどこから来た? ああ? その訛りは」
「クレイドルズですぅ。田舎の方ですわ。ワテはみなさんと一緒や。サンダース・ファミリーにヤラレましてん。ワテはリトル・ラムさんの一番弟子の舎弟の義理の兄弟の従兄弟の知り合いと組んどりましたん」
おかしな訛りでまくしたてるキートンにトミーはイラついた。
「うるせえぞてめえコラ俺より喋るんじゃねえ。で、どんだけ欲しいんだ?」
「五百グラム」
「ほお。じゃ金出せ」
キートンが大金を出したところでトミーはようやく銃を引っ込め、コートの懐に常備している粉袋を渡した。
「じゃ、さっさと失せろ田舎者」
「待ってください、ワテを雇ってくださいな。ワテは働きもんでっせ」
「んだとコノヤロ。金持ちのくせにふざけんな」
「ワテ主人失くして仕事無くて土地全部売りましてん。なんもかんものうなって、あるのはサンダースへの恨みだけや。だからどうか、同じ境遇のトミーさんに仕えさせてください」
殴られたようなポパイ顔のキートンに終始ムカついたが、少し哀れだった。
トミーは舌打ちする。
そこで一台のワゴン車が公園脇に停まった。
降りてきたのはベン・ダグラス。
霧を抜けトミーのところへ駆けてくる。
「おーう、待ったぜダグラス。何してやがった」
黒いロングコートにハンチングのダグラスが手を上げた。
「いやあすまん、車がイカれてな。代車調達してた。霧も深かったしな。……二人見つけて乗っけてる。〝希望者〟をな」
「おおそうか、でかした。で、こいつ……」とキートンを指す。
「お前の名を出して現れた買い手だが、知ってるか? こいつのこと」
ダグラスは両手を広げ、目をくりくり輝かせた。
「おーよ勿論キートンよ! こいつはジョン・キートンだ。クレイドルズの哀れな奴。不細工だ女も寄りつかねえ、仕事もねえ、家も土地も全部売っちまった。自暴自棄になってヤク漬けになる前によジョン、俺と働けや。なあいいだろトミー。ジョンは働き者だ」
たじろぐジョン・キートンの肩を叩くダグラス。
キートンは頭を下げ、トミーはつまらなそうに痰を吐いた。
「ダグラスがそう言うんなら仕方ねえや。じゃあ、ついてこいジョン」
ダグラスが開けるワゴン車の後部座席。
乗っているのは黒い長髪の痩せ型の男と、民族衣装を纏いキャップを深々と被った髪も髭も長い男。
二人ともうつむいて動かない。
「睡眠薬で眠らせてる。今まで何回何人運んだっけか……いつもガヤガヤうるせえしよ。エリアNPCに着くまでおとなしくしててもらわねえとな」
ダグラスはそう言ってトミーを助手席に座らせた。
ジョン・キートンが後ろに乗った時、トミーは一つ考えが浮かんだ。
そうだこのキートンも実験台にしてしまえばいいと。




