49.帰還、ジャックとマルコ
アパートに着き、車を降りると四人の前に二人の警官が立ちはだかった。
懐中電灯で照らされるクリシアとブリウス。
「お前はジャック・パインドの妹だな。そしてお前はボーイフレンドか?」
警官の質問にブリウスは、
「はい。いや、もっとそれ以上ですが、何か?」
すると警官は「ワハハ。そいつはハッピーだな。で……」と、後ろの二人を照らす。
「爺さんと……お前は何者だ? 包帯なんぞしやがってミイラ男か。ちょっとその鼻の絆創膏をめくって見せろ」
へっ? とボビィは両手を広げた。
車をチェックしたもう一人がボビィに接近し、荷物も照らした。
「こら。顔をしっかり見せろって言ってんだ! この中身は何だ?」
ボビィはしぶしぶ傷を負った素顔を晒す。
どう見てもギターでしょとギターケースも開けて見せる。
事態にイラついたブリウスが割って入った。
「ちょっとお巡りさん、俺の友達に何すんですか!」
警官同士は顔を見合わせ、つまらなそうにライトを消し舌打ちした。
「お前ら。ジャックを匿ったりするんじゃないぞ。逃亡幇助の罪でブタ箱行きだからな」
****
アパートの一階、管理人室マルコ・チェンバース宅に入る四人。
小声で囁きかける爺様ジャックの姿にマルコは仰天したが、その手を握り抱きしめた。
ソファに座り、向かい合う。間を置かずジャックはマルコに訊いた。
「セリーナさんから聞きました。マルコさんは指導者ベルザのことを知ってたんですね。ソサエティという地下組織の存在も」
「……ああ。俺はジョージの親友だ。知ってたさ。彼らもお前たちを見守っていた」
「ベルザは、今どこに?」
「うむ。おそらくこの町にはいない。リッチーさんたちとジミー・リックスの居場所を探してるはずだ」
ジャックはマルコにこれまでの事を話し、ボビィを紹介した。
マルコはボビィを歓迎し、妻のジェーンに彼の包帯を換えさせた。
まとわりついていた子供たちはやがて躾を守り、ベッドに横になった。
ジャックは頬に深いしわを刻んだシリコンマスクの下で微笑んだ。
「……とにかくソサエティのセリーナさんたちが味方だ。心配するなクリシア。ブリウスもいるだろう?」
「これからどうするの? お兄ちゃん」
「またアナザーサイドに行かなきゃならん」
黙って聞いていたマルコが目を丸くして口を開いた。
「お前そのトミー・フェラーリって奴を追って、どうするつもりだ?」
マルコを見つめるジャック。
マスクの下の目は苦渋の怒りを宿していた。
「殺してやりたい。……でもあと二人いる。そいつらの名前を吐かせて、三人まとめて警察に突き出す。そう、セリーナさんが協力してくれる。法で裁いてもらうさ」
顎をさすりながらマルコは見つめた。
「ジャック。一つ気になることがある。ウィップスとここへ来た男。ポールさんを脅した〝ヴァル・ヴォーン〟て名のる男。奴はその昔、クリスティーンの付き添い人だったブライアンに雰囲気がよく似ていた」
「え?!」
「いや、顔はちょっと違うんだがな。俺を見る目つきが昔ネイバーフッドで見せた、あの嫌悪感」
「……ブライアン」
「ブライアン・ヒル。その男もソサエティのメンバーだった……だが彼は敵地で死んだと、以前ベルザから聞かされたんだ。まさかな」
マルコは両掌を広げ、首を横に振り撤回した。
長居はできない。
やがてジャックは立ち上がり、車の鍵を手にした。
午後十時、皆に別れを告げ、先を急いだ。




