42.謎の男ダグラス ※
エルドランド南部刑務所所長アーロン・ウォルチタウアーは受刑者の中から先ず、身寄りのない者と不法入国者をナピス・ファミリーの収容所〝エリアNPC〟へ送り込んだ。
ウォルチタウアーにそそのかされ金と未知の力に目が眩んだ刑務官たちもそこへ向かった。
所長室のウォルチタウアーのもとへ莫逆の友、鷲鼻のトミー・フェラーリが現れた。
そしてトミーの後ろにはもう一人。ウォルチタウアーは怪訝な顔で訊ねる。
「ん? その男は?」
トミーはその肘を掴み前へ。
体格のいい黒の革ジャン男は小男トミーの頭上でペコリと頭を下げた。
トミーが紹介する。
「こいつぁベン・ダグラス。仕事仲間さ。アフガニスタンにケシ畑の農場を持ってる」
「ほう。どこぞの金持ちか? いつからの付き合いだ」
黒ずくめの質素なダグラス。
薄い青レンズの眼鏡に茶髪をオールバックに撫でつけた男。
ウォルチタウアーはデスクの椅子に座ったまま猜疑の目で彼を見た。
「二年ほど前かな。なあダグラス。そう、ダグラスもサンダースに恨みがある。クレイドルズの農場を潰されたんだ」
と、トミーはすらりと高いダグラスの肩を叩いた。
「ダグラスのおかげで俺の商売も安泰だ。信用できる奴だ。ほれ、俺のダチのアーロン・ウォルチタウアー。しっかり挨拶してくれ」
ダグラスは「……ではコレを名刺代わりに」と懐からヘロインの粉袋一キロをウォルチタウアーに差し出した。
彼は含み笑いで受け取り、二人をソファに座るよう促した。
「なるほどトミー。ただ殺しに明け暮れてるわけではなかったか。いいナリをしてると思えば……自分だけ潤ってたな」
「アーロン、俺だって忙しいんだ。まあ許せや。……で今日は何の頼み事だ?」
ウォルチタウアーはちらりとダグラスを見る。
「このダグラスは知ってるのか? 殺しの事も」
「ああ。こいつは銃は怖がってろくに撃てねえが運転手としては超一流。俺の逃げ道を拓く頼れる奴だ。なあダグラス」
「そう言ってくれて嬉しいよトミー。ウォルチタウアーさん、俺はトミーに恩義がある。トミーの顔で俺の商売も潤ったし、行き場も見つけた。力になりたいんだ」
「……ふむ。よかろう。では君もナピスの兵隊になればどうかね?」
眉をひそめるダグラス。目を丸くしてトミーが首を傾げる。
「何の話だ? アーロン」
「ヴォーンのように生まれ変わるんだ」
「……ああ。そういうことか」
ダグラスは黙ったまま見つめている。
「そうすればサンダース・ファミリーなど一夜で壊滅できるぞ」
とウォルチタウアーは鼻で笑い、冗談だよと手で掻き消した。
机の引き出しから資料を取り出し、立ち上がってトミーに渡すウォルチタウアー。
「人が要る。兵隊を造るための人体実験用のモルモットがな。トミー、先ずは町のゴロツキどもからだ。金が欲しい奴らを集めろ。ダグラスはそいつらの護送を手伝ってくれ」




