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FREEDOM  作者: ホーリン・ホーク
third season
41/83

41.ジャックの居所、逆探知

 チェンバースアパートの廊下、二〇二号室前。

 ヴァル・ヴォーンは静かにドアノブを握り、鍵の掛かったドアを一息で引いて破砕した。

 先ほどからの恐るべき剛腕に、連れのウィップスは身震いしていた。


 中へ入るが誰もいない。

 灯りを点けると簡素な内装と家具が広がる。

 人の出入を感じさせない、鎮んだ佇まい。

 しばしの沈黙を破ったのは駆け上がってきた管理人のマルコだった。


「あんたら何してんだ! ドア壊しやがって!……ウィップスあんた」

 ウィップス巡査は不吉な笑みを浮かべる。

「ご無沙汰だな。マルコ・チェンバース。ジャックはどこだ?」

「今はいない。何だ? ジャックが何かしたのか?」

 ヴォーンが前へ出る。

 目を見合わせる二人。眉をひそめるマルコ。

 ヴォーンは虚ろな目で髪を掻き上げ、ウィップスを見やる。


「この男がチェンバースか?」

「ええ。ジャックの……親代わりみたいなもんで」

 ヴォーンは不意に目頭を押さえた。

 マルコは彼を凝視しながら、言った。

「……俺、あんたを見たことがあるぞ」

「……う、うぅ」

「どこかで……なぁ、もしや」

 ウィップス巡査はヴォーンの様子を窺った。

 こめかみを押さえ、目を閉じている。ウィップスが訊く。

「どうされました? ……気分が? 大丈夫ですか?」

 近づいてくるマルコをウィップスは押しのけた。

「おい、この方はインターポールのヴォーンさんだ。ジャックには窃盗団の一味だという疑惑がかけられた。お前も知ってるだろう? リッチー・ヘイワースたち、あの四人組よ」

「まさかそんな……」


 ヴォーンは首を横に振り、ふらふらと玄関へ向かった。

 そしてウィップスに手招きする。

「……行くぞウィップス。また出直そう」

「ええ? こいつがジャックをかくまってるかもしれやせんぜ」

「いや。気配を感じない。次へ行く」

 そう言ってヴォーンはマルコを指差した。

「俺がここへ来る前にポール・ロッソから連絡を受けたのだろう? まあいい。あの四人は必ず捕まえる。ジャックも。どこへ逃げても無駄だと、ジャックにそう伝えておけ」



 ****


 

 インフィラデルのライブハウス・ネイバーフッドでは。

 飲酒じゃ運転させらんないよとビリーが言うからあきらめて腰を据え、ジャックは録音されてるチェイン・ギャングスの歌を全て聴きながら酔いざめを待った。

 逸る気持ちを抑えるのは父ジョージへの想いだった。


 ――『ジャック。お前は強くなりたいって言うだろう? だったら、つまらないことでくよくよしないでデッカイことを考えるんだ』


『海の広さを見ろ!』と励ます、それはジョージの大きな手。


『ジャックお前はクリシアの面倒もよく見てくれる。その優しさこそ強さだと、パパは思う』


 子供たち二人を抱きしめるジョージの温もり。


『見えるものが全てじゃない。見えないところに真実があるもんさ』


『やられたらやり返す。確かに気持ちはわかるが、ジャック。憎しみの連鎖は何も生まない。負の方向だけを、お前は向くのか?』


 ジョージは二人を海に連れ出し、ギターを爪弾きながら語った。

 そして砂浜で素足になって並んで大きく空を仰いだ。


『神様は見ていてくださる。小さいことは気にしない。イッツ・オーライ(これでいいんだ)! パパは天に向かって恥ずかしくないように生きる。天を目指すんだ』



 ジョージの広い背中を懐かしむジャック。

 広い背中。海の広さ。

 彼の見ていた、未来。


 ――デッカイことを考えろ……。

 優しさこそ強さだ……憎しみは、何も生まない。

 負の方向だけを……お前は向くのか?

 ……天に向かって……天を……。


 流れる曲がさらに想像を広げてゆくと、傍らのビリーがジャックの肩に手をやった。

「……そういやさジャック。ジョージのことについてここに訪ねてきた人がいてね。刑事さんじゃない、黒髭のシブい外国人」

 突如心酔から引き戻されるジャック。

「え? それって」

「ちょっと怪しげというか……得体の知れないリッチさというか」

「リッチ、それリッチーだ!」

「あ、あー! そうかも、名前も確かリッチー……」

「ヘイワース」

「だった。やっぱり知ってたのね。そう、品のいい男だったわ。ジョージの知り合いだと言って最初はジョージを捜しに、二度目は事件の真相を追ってる。犯人捜しをしていると。アタシは品のいい男には協力的だから」

 ジャックはまた嗚咽した。

 リッチーのその姿を想うと、また痛烈に胸が熱くなった。



 ****



 やがて酔いも覚め、ビリーに別れを告げてジャックは車に乗りアクセルを踏んだ。

 しばらく考えた後、公衆電話の前で停車した。

 車を降り、受話器をとってクリシアにかける。

 無性に声を聞きたくなった。

 クリスティーンによく似たクリシアの声を。

 そして、知ったことを早く話したかった。

 しかしいくら呼んでも出ないのでマルコの方へ――。


「マルコさん、俺です。クリシアはそっちですよね」

《ジャック? お、お前か! 無事か?!》

「え? 何すか、そんなにビックラこいて」

《クリシアはここだ。ジェーンがそばにいてくれる。心配するな》

「……んーおかしいなぁ。何かあったんですか?」

《ああ、長話はできない。ポールさんにちょっとあってな。お前も警察に狙われている》

「はあ?! 警察ぅ?!」

《ちょっとクリシアと代わるから。手短に》

 マルコの早口から不穏な空気がキリキリと伝わる。

《……お兄ちゃん!》

「クリシア、大丈夫かお前」

《うん。あの夜は私もいたからわかってる。信じてるけど……でも今は帰ってこない方がいい》

「あの夜?」と問いただす前に相手がまたマルコに代わる。

()()()()()()はいると聞く。じゃあな。電話切って早く逃げろ」

「ちょっと、待って! マルコさん!」


 ガチャリと電話を切るマルコ。

 何なんだいったいワケわからんと今度はポールにかけてみる。


「ポールさん! 何があったんすかあ?!」

《……おお……ジャック。元気か?》と、ポールは弱々しい嗄れ声で応えた。

《聞けよ、この太い首根っこを片手で掴んで軽々と……この百キロの巨体を吊り上げる奴がいてな……ありえねえって》

 電話の向こうでブリウスの声がする。

 俺が話すと言って受話器をぶん取った様子。


《ジャック! 俺》

「おいブリウス! ポールさん何されたんだ! 誰に?!」

《ジャック〜、ヤバいよ……ヴォーンて変な奴がウィップスと店に来てポールさんの胸ぐらつかんでさ……俺も蹴られてちょっと気絶した》

「ええ?! 大丈夫かよお前もーっ! 警察がなんで?……まさか狙いは……ソウルズ」

《ビンゴ。んでジャックも仲間だと……この前の博物館。やっぱ見られてて共犯だと思われてる。必ず捕まえるって……》 

 かせ! っと、ポールがそこでもう一度語りかける。

《ジャック。おそらく警察はそこを逆探知する。だから早く去れ!》

「ポールさん…」

《いいか、お前は何もしてない。信じてる。お前は性根は本当にいいやつだ。ブリウスと同じ、俺の息子同然。だから今はとにかく、帰ってくるな》

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