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FREEDOM  作者: ホーリン・ホーク
third season
40/83

40.クリスティーンの残響

 まあ語りましょうとビリーは店を閉め、ジャックをカウンターの椅子に座らせた。

「マルコは元気なの?」と隣りに座る朗らかで物腰の柔らかい店主(マスター)ビリー。

 ジョージを知る人物に会えた喜びを前に、ジャックは()くのをやめた。

 不思議な巡り合わせにビリーと場内を目を丸く見回しながらジャックは訥々と胸の内を語った。



「……そうだったの。あんた、相当苦しんだね」

「ええ。大好きでしたから。パパは出会った時から優しかった。俺も彼が本当の父親じゃないなんて、疑うのも忘れるくらい。なんでも言えた。いつだって守ってくれたんです……」

 思いきりこみ上げたジャックは唇を噛んで堪えた。

 胸元をまさぐり煙草をくわえると、ビリーが肩を叩き灰皿を出した。


「出会った時って、いくつ?」

「三歳くらい」

「え? 覚えてるの?」

「なんだか、近頃ものすごくハッキリと思い出せるんです」

「……そう。あんたなんだか早熟そうだしね。で、ボビィちゃんには何の用事が?」

「それは……人に頼まれたことで。とにかく、彼に渡さなきゃいけないものが」


 ふんふんと頷きながらビリーはチェイン・ギャングスの写真をもう一枚ジャックに渡した。

「ボビィちゃんはどこかでチェイン・ギャングスのことを知ってその音源を求めてここに来たの。その歌に惚れて。もっと言えば、クリスティーンの声に惚れてね。彼女の歌は本当素晴らしかった。澄んでいて艶のある声。彼女の書く詞も曲も流れるように胸にスゥ〜っと入ってくる感じ。優れた歌ってのは情景が浮かぶのよ。最初はギター一本で一人で歌ってたの。来ていたジョージたちも惚れ込んで先ずアタシに訊いてきた。あれは天使か? って。それで是非彼女と組みたいから一緒に頼んでくれって。……でも、ん〜、なかなかコイツがなぁ」と、ジャックに渡した写真を指差す。

「このブロンドの付き添い人、ブライアンが嫌がったんだ。でも彼女自身が望んだの。クリスティーンも最初からジョージに惹かれてたってわけ。……うん、バンドでも彼女の魅力は充分出てた。……そう、ボビィちゃんにも聴かせたこの録音を流してあげる」

 ビリーはそう言って背を向け、レコードの曲を再生させた。



 クリスティーンの美しい歌声に、ジャックは打ち震えた。

 凛と厚みのある、芯のある声。倍音の巧みさ。

 豊かな表現力、滲む憂いが胸に染み入る。

 ――救済とはこのような瞬間なのだろうか……。

 クリシアを産んだ母さんがここにいる。母さんが歌ってる。ここに……。

 ジャックは潤む瞳を両手で覆った。


 ビリーはレコードを停め、ジャックの揺れる肩をさすった。

「この歌の名は〝自由〟。そう、歌は声よ」

 ビリーはそう言ってウィスキーをショットグラスに注いだ。

「ジャック。男も泣いていいんだよ。仕方ないじゃないか、溢れ出てくるものは。思いきり流せば洗われて清清するもんさ」


 ビリーは一杯をジャックに勧めた。

「クリスティーンの声にジョージのリードギター」

 そう言ってもう一度再生するビリー。

「……ビリーさん、さっきこのブライアン……付き添い人て言われたけど、どういった?」

「ふふ。クリスティーンはどこぞのお嬢様よろしくいつも護衛がいたわ。最初は熱心なファンか親衛隊かと思ったけど。詳しくは教えてくれなかったけど、きっと良家の出だったのよ」

「……じゃ、ボディガードみたいな」

「うん。きっとそんな感じ」

「……あの、R.J.ソロー……ボビィが歌ってたのもこの歌ですよね?」

「そうよ。あの鼻にかかったかすれ声のせいで違う曲に聴こえるけど。ボビィちゃんは言ったわ。この〝自由〟って曲はクリスティーンのオリジナルではなく元々レプタイルズの伝承(トラディショナル)(・ソング)なんだ。でも彼女の歌唱が最も歌の真髄をとらえてる。彼女に歌われるためにあるような曲だとかなんとか……あれこれ講釈垂れて。でも彼も凄いの。ボビィちゃんはチェイン・ギャングスの数十曲をほとんど一日でマスターしたから」


 ビリーの嬉しそうな饒舌に、ジャックはつい差し出されたウィスキーを飲み干してしまう。

「ねえビリーさん、で……そのボビィちゃんが次どこに行ったか、見当つきます?」

 膝を叩いて目を見開くビリー。

「そ、そうだったわ。それが知りたかったのよねあんたは。……そうね、彼はチェイン・ギャングスのこともっと知りたがってて……クリスティーンとジョージのことは話したけどマルコならイーストリートでアパートの管理人してるはずよって、言ったの」

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