33.キャプテン・キーティング ※
一七五〇年。
海賊船〝デッド・ポエッツ・ソサエティ号〟は王族の豪華客船を襲った。
荒くれ者たちが着飾った者たちから金品を奪ってゆく。
操舵室、その船長ノーランに歩み寄ってゆく海賊キャプテン・キーティング。
腰を抜かし、ぶるぶると震えあがるノーラン。
キーティングはサーベルを抜き、問いただす。
「船長よ。船倉には何を積んでいる?」
「……しょ、食料だ」
「嘘だ。俺に嘘をつくな。貴様らが言うところの〝奴隷民族〟だろう? 知ってるんだ。解放しろ」
「……もう金は盗っただろう、見逃してくれ」
ぜえぜえと胸をさすりながらノーランは懐をまさぐった。
「解放するんだ。貴様らの方が上だなどと勘違いするな。寧ろ彼らの方が神に近い」
次の瞬間、銃を引き抜いたノーランは手首ごと斬られ、そのまま胸を貫かれた。
側近の二人、ベルザとカイザが駆け上がってくる。
「キャプテン、今し方牢を破り、彼らを解放しました」
「人数は?」
「およそ百名」
「ベルザ。その頭領を甲板に上げろ」
「はい」
カイザが得意げに呟く。
「金になりますね、キャプテン」
「……はあ? 何がだ?」
「いやいや奴隷たちが。売りさばいてナンボでしょ? あ、それともコキ使うおつもりで?」
キーティングはカイザの左頬をぶっ叩いた。
「いっ、痛えっ!」
「彼らの力は借りる。だが強要はしない。カイザよ真実を教えてやろう。彼らは爬虫人類。我々よりも優れている」
ベルザは鎖に繋がれた一人を連れ、キーティングの下へ。
傷めつけられた顔、地肌の文様、纏うボロの下には隆々とした肩と胸が盛り上がっている。
血の滲んだ素足で、そのレプタイルズの頭領は完全に冷めた目でキーティングを見ていた。
キーティングは訊ねた。
「名前は?」
「……ヘイワース」
「すまない。まず先に名のるのが礼儀だな。俺はキャプテン・キーティング。君たちを解放するのは目的があってのこと」
ヘイワースは動じず見つめている。
だがその後、彼は目を見開いた。
なんとキーティングはひざまずき、頭を下げたのだ。
「頼むヘイワース。俺たちの仲間になってくれ」




