30.待機
ジャックが一人で歩いて行っておよそ二十分は過ぎた。
公園の前、暗い車内に潜むブリウスとクリシアの様子は――。
時計の音がカチカチと緊張を煽りたてる。
静寂とにじむ汗。
閉めていた窓を少し開けると夜風が涼しく二人をなだめた。
どこからか虫の音が聞こえると同時にブリウスの腹の虫もグゥ〜〜と鳴った。
「ププッ」と助手席のクリシアが吹き出す。
「……んだよぉ」とブリウスはつらい顔で言った。
「ごめんごめん。ねえ、ブリウス、ケーキ食べようか」
実はずっとぷわんと漂っていた香ばしい匂い。
「うん! 俺もう耐えらんねぇ」
クゥ〜〜とクリシアのお腹も鳴って、二人は幸せそうに笑った。
クリシアの作ったベイクドチーズケーキ。
ジャックを待つ二人は申し訳なくひと切れだけ食べることにした。
「超うめぇーーっ!」とブリウスがはしゃぐ。
「ありがとう」とクリシアもハンカチで口を拭いた。
ブリウスはきょろきょろと外に注意を配った。
「……しかし大丈夫かなあジャック……おじさんたちに会えたかなぁ」
隣りのクリシアはブリウスを見つめる。
「ねえ。で、何の仕事なの? リッチーさんたち」
ギョッと血相を変えたブリウス。
「……へ?」
「『へ?』じゃなくてさ。その仕事の話よ。なんか隠してるよね?」
「え、なーんにも、ないよ」
「お兄ちゃんもさ。四人のこと『よくわかんない』って言うの。おかしくない? ただの船乗りってのもやっぱり怪しいし。お兄ちゃんのこと気に入って優しく接してくれて、会いに来てくれるのも嬉しいし、リッチーさんもルカさんもみんないい人だってのはわかるけど、どこか謎なのよ」
「そ、そんなことないよ、……あ! な、謎の、海賊、正義の海賊団かも」
……しらけた目で見つめるクリシア。
にゃははと苦笑いしたかと思うとブリウスはガバッといきなりクリシアを抱きしめた。
「ちょっとなによ急に! エッチ!」
「しっ! 黙って、警官が来る!」
「え……」
サイドミラーには、街灯に照らされた警官が一人歩いてくるのが映っていた。
ブリウスは余計に力を入れて抱きしめた。
「痛いわ」
「ごめんよ、今はこらえて。こうしてたら気のきく警官なら黙って見過ごしてくれると……」
ブリウスの吐息がクリシアの耳に。
「あは……くすぐったい」
「静かに。じっとして」
二人は抱き合ったままじっと息を殺した。
取り込み中の熱いカップルを気遣ってか、警官は咳払いを一つした後、通り過ぎた。
一度振り返ったがしばらくして姿を消した。
「な? 大丈夫だったろ?」
「ププ……おっかしい」
クリシアはブリウスの胸の中で頬を赤らめる。
「な、なんだよ」
「ブリウスって、ヘンタイのおじさんみたいな顔してる」
「えーー?!」
「だってぇ、そのヒ・ゲ・ヅ・ラ!」




